知財レポート
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- 日本判例研究レポート
- 知財判決例-審取(当事者系)
ベッド 審決取消請求事件
事件の概要
| 判決日 | 2025.09.30 |
|---|---|
| 事件番号 | R7(行ケ)10003 |
| 担当部 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 発明の名称 | ベッド |
| キーワード | クレーム解釈 |
| 事案の内容 | 無効の審決がなされた実用新案登録に係る考案について、審決の取り消しを求めた本訴訟にて、審決が取り消された。クレームの「脚」および「接続されている」の解釈について争われた。 |
事案の内容
【手続の経緯】
平成29年 8月14日 実用新案登録出願(優先権主張日:平成29年7月31日)
平成29年10月 4日 実用新案権の設定登録(実用新案登録第3213233号)
令和 6年 1月23日 実用新案登録の無効審判請求(無効2024-400001号事件)
令和 6年12月 9日 無効審決(請求項1~10)
令和 7年 1月14日 本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起
【考案の内容】
【請求項1】
マットレス本体及び前記マットレス本体に接続されている複数の支持板を有するマットレスと、
前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚と、
を備えるベッドであって、
複数の前記支持板が、前記マットレスを前記支持板の配列方向に沿って巻き取ることができるように前記マットレス本体の一方の面に間隔を隔てて配列されていることを特徴とするベッド。
【甲第1号証に記載された考案】
国際公開第2014/075789号

【本件審決の理由の要旨】
考案1-5、7、8、および10
甲1考案との間に相違点がなく、実用新案法3条1項3号に該当し、本件考案6及び9は甲1考案及び周知技術に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同条2項に該当し、いずれについての実用新案登録も、同法37条1項2号により無効であるとした。
※以下、下線は筆者が付した。
【当事者の主張】
1 取消事由1(本件考案1ないし5、7、8及び10に係る新規性に関する判断の誤り)
(原告の主張)
(1) 本件各考案における「支持脚」について
「脚」とは、動物の下肢の部分、形・位置などが動物の脚に似ているものを意味するところ、ヘッドボード及びフットボードは、マットレスの下部のみならず、上部にも位置しており、柱状ではなく板状であることから、「脚」とは評価できない。日本工業規格(JIS)によれば、当該技術分野(住宅用普通ベッド分野)では、当業者において、「脚」とヘッドボード及びフットボードとは、全く異なる部材であると広く認識されていることが明らかである(甲12)。
また、本件明細書【0002】【0015】【0021】の記載をみても、本件各考案は、ベッドフレームをなくすことで搬送を容易にすることを目的とし、「支持脚」はベッド全体の搬送体積を大きく低減できる形態であることが必要不可欠であるから、柱状であって板状ではない。
(2) 本件各考案における「接続されている」について
「接続」とは、多義的な言葉であるから、請求項の文言からは一義的にその技術的意義を導くことはできず、本件明細書の記載を参酌すべきである。
そして、本件明細書の図1によれば、本件各考案では、支持板単独で、又は支持板と補強板とが一体となって、支持脚とくっついて離れない状態になっていることで、初めてマットレスは支持脚に支持され、マットレスが支持脚から落下することを防止し得る。したがって、本件各考案における「接続」とは、離れないように物理的な措置が講じられていることを指す。
甲1考案のベッドマットレス1及びこれに取り付けられたスラット3とベッドフレーム8(ヘッドボード及びフットボード)は、物理的にくっついて離れない状態にはない以上、「接続されている」ということはできない。
(3) したがって、甲1考案は、「支持脚」、支持板と支持脚とが「接続されている」との構成、いずれも備えていないから、本件考案1ないし5、7、8及び10と相違している。
加えて、本件考案5については、甲1考案におけるリブ状のマットレス支持板と側板は本件考案5における「補強板」ではない上、これらは支持板に「接続」されていない。したがって、甲1考案は「支持板に着脱可能に接続されている補強板」との構成を有していない点でも、本件考案5と相違している。
(被告の主張)
(1) 本件各考案における「支持脚」について
本件各考案はベッドに関する考案であるから、それに即して「脚」の文言を解釈すべきである。そうすると、「脚」とは、ベッド本体の下部で支えの用をなすもの、又は末に位置する部分を意味し、柱状だけでなく、板状のものも含まれる。甲1考案におけるヘッドボード及びフットボードは、正にこの「脚」に該当するから、本件審決の認定に誤りはない。日本工業規格(JIS)においても、ヘッドボード及びフットボードはベッドの「脚部」であると説明されている。
原告は、本件明細書の記載を根拠として主張するが、「脚」の意味は文言から一義的に理解することが可能であるから、本件明細書の記載を参酌すべき特段の事情はない。
(2) 本件各考案における「接続されている」について
「接続」とは、離れているものが単に接することも含む語であり、くっついて離れないことを意味するものではない。
甲1考案において、スラット3はバンド5とつながっており、バンド5はベッドフレーム8の側板に設けられたマットレス支持板で支持されてつながっており、マットレス支持板は側板とつながっており、側板は支持脚であるヘッドボード・フットボードとつながっているから、これらは間接的に接続されている。
また、甲1考案のベッドマットレス1(及びこれに取り付けられたスラット3)は、マットレス支持板の上に単に置いてあるだけでなく、ベッドフレーム8内に差し込まれ、ベッドフレーム8を構成するヘッドボード、フットボード及び側板で四方を囲まれることで、ベッドフレーム8に対して位置ずれ等をしない状態をとるものであるから、「接続されている」といえる。
したがって、本件審決の認定に誤りはない。
(3) 本件考案5については、甲1考案におけるリブ状のマットレス支持板と側板は本件考案5における「補強板」に該当し、これらは「接続」されているから、甲1考案は「支持板に着脱可能に接続されている補強板」との構成を具備しており、相違点はない。
【当裁判所の判断】
1 本件審決の取消事由1(本件考案1ないし5、7、8及び10に係る新規性に関する判断の誤り)について
(1) 「支持脚」について
ア 本件考案1における「支持脚」の解釈
(ア) 「脚」とは、一般的に「形・位置などが動物の足に似ているもの」、「物の下部にあり支えの用に供するもの」を意味し(甲11)、住宅用普通ベッドに係る日本工業規格(JIS)においても、ベッドの床面に接する柱状の部材の名称を「脚」と表示していることが認められる(甲12)。そうすると、本件考案1における「支持脚」とは、マットレスの下部にあり、マットレスを支える柱状のもの、と解するのが相当である。
(イ) これに対し、被告は、「脚」とは、ベッド本体の下部で支えの用をなすもの、又は末に位置する部分を意味し、柱状だけでなく、板状のものも含まれると主張する。
しかしながら、上記の日本工業規格(JIS)において、床面に接する板状の部材の名称は、「脚」ではなく「ヘッドボード」、「フットボード」と表示されていることが認められ(甲12)、住宅用ベッドに係る技術分野において、「脚」とは柱状の部材を指し、ヘッドボードやフットボードのような板状の部材はこれに含まれないといえる。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
イ 甲1考案
前記第2の3(2)の図2によれば、甲1考案に係るベッドは、ヘッドボード及びフットボードの板状の先端が床面に接することによってマットレスを支えており、ほかにマットレスを支える柱状の部材はない。
したがって、甲1考案は、本件考案1の「支持脚」を備えているとは認められない。
(2) 「接続されている」について
ア 本件考案1における「接続されている」の解釈
(ア) 「接続」とは、一般的に「つなぐこと。つながること。」を意味し、「つなぐ」とは、一般的に「糸・綱などで一か所に物を結びとめて離れないようにすること。」、「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」ことを意味する(甲10の1、16)。また、本件各考案が、マットレスやこれを支持する部材等をもって構成されるベッドの考案であることに鑑みれば、本件考案1における「接続されている」とは、マットレスと部材、あるいは部材同士が、離れないように続け合わされている状態を意味すると解するのが相当である。
(イ) これに対し、被告は、「接続」とは、離れているものが単に接することも含み、離れない状態にされていることを意味するものではない、と主張する。
しかしながら、上記(ア)のとおり、本件各考案がベッドに関するものであることに鑑みれば、支持板を有するマットレスと、これを支える脚が「接続されている」と表現されている場合に、両者が離れないように対処され、ベッドとして一体の状態になっていることを意味すると解するのが自然であるから、両者が単に接しているだけであり、離れないように対処されていない状態を含むと解釈することは困難である。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
イ 甲1考案
(ア) 甲1考案におけるベッドマットレス1は、ベッドフレーム8の一部であるマットレス支持板の上に置かれているだけであり、マットレス支持板と離れないように続け合わされているものではない。そうすると、ベッドマットレス1の底部に固定されたスラット3(本件考案1における「支持板」に相当)が、ベッドフレーム8と離れないように続け合わされているとはいえず、その結果、スラット3は、ベッドフレーム8の一部であるヘッドボード及びフットボードと離れないように続け合わされているともいえない。
したがって、甲1考案は、本件考案1の、支持板と「接続されている」との構成を備えているとは認められない。
(イ) これに対し、被告は、ベッドマットレス1(及びこれに取り付けられたスラット3)は、マットレス支持板の上に単に置いてあるだけではなく、ベッドフレーム8内に差し込まれ、ベッドフレーム8を構成するヘッドボード、フットボード及び側板で四方を囲まれることで、ベッドフレーム8に対して位置ずれ等をしない状態をとるものであるから、「接続されている」に当たると主張する。
しかしながら、甲1考案において、ベッドマットレス1及びベッドフレーム8の大きさについては特段開示がなく、ベッドマットレス1が、ベッドフレーム8に対し、その四方において、離れないように続け合わされている、と評価できる程度に密着し、位置ずれしない状態になっていることは読み取ることができない。
したがって、被告の上記主張には理由がない。
(3) 本件考案1と甲1考案との対比
上記(1)及び(2)で検討したところによれば、甲1考案は、「支持脚」との構成を備えておらず、この点において、本件考案1と相違している。
また仮に、甲1考案におけるヘッドボード及びフットボードが本件考案1の「支持脚」に相当すると解したとしても、これらは、支持板と「接続されている」との構成を備えていないから、本件考案1と相違している。
(4) 小括
そうすると、本件審決は、本件考案1と甲 1 考案との間に相違点がないと判断した点において、結論に影響をもたらす誤りがあったものといえる。
同様に、本件審決は、本件考案2ないし5、7、8及び10についても、本件考案1を引用する構成につき、甲1考案との間に相違点がないことを前提に、それぞれ甲1考案との間に相違点がないと判断した点において、結論に影響をもたらす誤りがあったものといえる。
よって、取消事由1には理由がある。
(中略)
4 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由1ないし3にはいずれも理由があるから、本件審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
【所感】
「支持脚」については、「脚」の意味から「柱状のもの」と解するのは、限定的に解釈し過ぎているように感じる。
「接続されている」については、本件が簡素な構造であるベッドであることを鑑みると、本判決の解釈は妥当であると思う。
本件が実用新案登録であり、訂正の機会が限定されているという事情を参酌すると、無効の審決を取り消す本判決がなされた点は理解できる。また、この実用新案権が有効となった場合にも、その技術的範囲は本件の実施例に限定して解釈されるものと予想する。
実用新案の場合には、訂正の機会が限られており、無効理由を解消できない可能性もあるため、出願時には意匠の出願についても併せて検討することが重要であると感じた。