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3次元ダニ捕獲体 特許権侵害差止等請求事件

事件の概要

判決日 2026.05.14
事件番号 R7(ワ)2859
担当部 東京地方裁判所第26民事部
発明の名称 3次元ダニ捕獲体
キーワード 構成要件充足
事案の内容 本件は、特許権侵害行為差止等請求事件である。「スポンジ状の3次元連続気泡構造体」、「メッシュ状の連続格子構造体」は、「不織布」に該当しないと判断された。

事案の内容

【手続の経緯】

平成26年11月11日 本願出願日(特願2016-220232)
令和 3年11月30日 本願登録日(特許第7002839号)
令和 8年 5月14日 判決日

【本件発明1の構成】

(以下における下線は筆者が付した)
A ダニを捕獲する3次元ダニ捕獲体であって、
B スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体であって、その孔径が300~3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部に粘着剤を含まず、前記ダニが通過し得る3次元連続気泡構造体通過層と、
C スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体であって、その孔径が300~3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部にダニ捕獲用の粘着剤が含浸されて形成された3次元連続気泡構造体粘着層を備え、
D スポンジ状の前記3次元連続気泡構造体粘着層を内側に設け、その外側に隣接し合って連続してスポンジ状の前記3次元連続気泡構造体通過層を設けた多層連続気泡多孔質体構造を備え、
E スポンジ状の前記3次元連続気泡構造体通過層の外表面から内部に入り込んだ前記ダニを通過させ、その外側に連続したスポンジ状の前記3次元連続気泡構造体粘着層で捕獲せしめる
F ことを特徴とする3次元ダニ捕獲体。

【本件発明2の構成】

G ダニを捕獲する3次元ダニ捕獲体であって、
H メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体であって、その孔径が300~3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部に粘着剤を含まず、前記ダニが通過し得る3次元連続格子構造体通過層と、
I メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体であって、その孔径が300~3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部にダニ捕獲用の粘着剤が含浸されて形成された3次元連続格子構造体粘着層を備え、
J メッシュ状の前記3次元連続格子構造体粘着層を内側に設け、その外側に隣接し合って連続してメッシュ状の前記3次元連続格子構造体通過層を設けた多層連続格子多孔質体構造を備え、
K メッシュ状の前記3次元連続格子構造体通過層の外表面から内部に入り込んだ前記ダニを通過させ、メッシュ状の前記3次元連続格子構造体粘着層で捕獲せしめる
L ことを特徴とする3次元ダニ捕獲体。

【被告製品1の構成】(原告主張)

構成a ダニを捕獲する立体構造のダニ捕獲シートである。
構成b 不織布を素材として、その繊維間に無数の微小な空隙を有する立体構造の多孔質体であり、その孔径は300~3000μmである。その内部に粘着剤を含まず、ダニが通過し得る立体構造の通過層が存在する。
構成c1 不織布を素材として、その繊維間に無数の微小な空隙を有する立体構造の多孔質体であり、その孔径は300~3000μmである。その内部にダニ捕獲用の粘着剤が含浸されて形成された立体構造の粘着層が存在する。
構成c2 表面に粘着剤を盛りつけた粘着シートが挿入されている。
構成d 構成c1の粘着層を内側に設け、その外側に隣接し合って連続して構成bの通過層を設けた多層の連続多孔質体構造を備えている。
構成e 構成bの通過層の外表面から内部に入り込んだダニを通過させ、その外側
に連続した構成c1の粘着層でダニを捕獲する
構成f ことを特徴とする立体構造のダニ捕獲体である。

【争点1-1(被告製品が「スポンジ状の連続気泡構造体」(構成要件BないしE)を備え、本件発明1の技術的範囲に属するか)について】

【原告の主張】
(1) 構成要件の解釈
ア 「スポンジ状」について
「スポンジ」とは「海綿」を意味するが(乙4の1)、より分かりやすくいえば、「内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の柔らかい物質」などと説明されている(甲16)。
「状」とは、「ありさま、すがた、かたち」のほか、名詞に付いて「…のような形である、…に似たようすである」を意味する(甲18)。
そうすると、「スポンジ状」とは、「内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の柔らかい物質」、あるいは「そのような形」のことをいう。

イ 「連続気泡構造体」について
気泡構造には連続気泡構造と独立気泡構造が存在する。このうち、「連続気泡構造」は気泡がつながっており、気泡がそれぞれ独立している独立気泡構造と区別される。
連続気泡構造では、気泡が連続的につながっていることから、気体や液体が通り抜けることができる点に特徴があり、また、気泡はつながっているのであるから、その形状が球形である必要はない。


ウ 被告の主張について
「スポンジ」は食器洗い用だけでなく、化粧用、浴用、医療用など様々な種類があるうえ(甲16)、ウレタンを素材としない不織布やポリエステルのスポンジ製品が数多く存在している(甲15の1~4)。
被告が挙げる3つの例についても、スポンジを使用する消費者は、ウレタンフォームのみのものだけでなく、ウレタンフォームに不織布がついた二層のもの、あるいはウレタンフォームと不織布とポリエステル等で形成された三層のもの、いずれも製品全体をスポンジと呼んでおり、殊更、ウレタン部分をスポンジと呼んでいるわけではない。

(2) 被告製品の不織布について
被告製品は不織布を素材とするところ、不織布は、繊維間に微小な空隙を無数に有する多孔構造であるから(甲10)、「内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の柔らかい物質」、あるいは「そのような形」であり、「スポンジ状」の構成を備え、その繊維間に無数の微小な空隙を有する多孔質体であるから、「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」に当たる。また、被告製品の内部には、粘着剤を含まないダニが通過し得る立体構造の通過層が存在し、上記空隙の孔径は300~3000μmである。
したがって、被告製品は連続気泡構造と同じ形状、構造、特徴を有しているから「スポンジ状の連続気泡構造体」との構成を備えている。

【被告の主張】
(1) 「スポンジ状の連続気泡構造体」の意義
ア 「スポンジ」は、「あかすり・食器洗い・クッションなどに使う海綿状のゴムまたは合成樹脂製品」を意味する(乙4の1)。
 また、本件明細書では、「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」の素材として、「ウレタンフォーム、ゴム発泡剤フォーム、メラミンフォーム、EVAスポンジフォームなど」が挙げられている(【0024】)。
ウレタンフォーム等である「スポンジ」の一般的な製造方法は、合成樹脂材料を発泡剤等により発泡させて気泡を発生させる方法である(乙6)。そして、「気泡」とは、「液体または固体中にあって気体を含む微小部分」(乙4の1)、「液体・固体の内部や表面にできる、気体を含んで丸くなったもの。泡(あわ)。」(乙4の2)を意味する。

「気泡構造体」(単に「気泡体」とも呼ばれる。)は、「多孔質体」、すなわち「多数の微細な孔をもつ物質」のうち、「気泡」が発生することによってできたものである。
 さらに、「気泡体」は、「連続気泡体」と「独立気泡体」に分類され、「連続気泡体」は、気泡が連続しているものを指す。

ウ 以上の「スポンジ状」、「連続気泡構造体」の意義からすると、「スポンジ状の連続気泡構造体」とは、発泡により形成された気体を含んで丸くなった微小部分を連続して多数有する海綿状のゴムまたは合成樹脂製品を意味すると解される。

(2) 被告製品が構成要件を充足しないこと
 被告製品の素材である不織布は、「平面状の繊維集合体」で、その製造方法も、「1本ごとに独立に分散された繊維」を「接着剤や熱による接着、あるいは機械的な絡合によって形成」するものであるから、不織布の孔は、発泡により形成されたものではない。
 さらに、一般的な不織布(甲10の図1.1参照)や被告製品に使用されている不織布(甲11参照)については、孔は存在しても、気体を含んで丸くなったものではない。なお、外観及び機能面に着目して本来はスポンジではないものを「スポンジ」と称する例があったとしても、本件発明1を目にした当業者が「スポンジ状」という単語から一般的な不織布を想到することはないといえる。
 したがって、被告製品の不織布は、「スポンジ状の連続気泡構造体」に該当せず、被告製品は、本件発明1のかかる構成要件(構成要件BないしE)を充足しない。

【裁判所の判断】
4 争点1-1(被告製品が「スポンジ状の連続気泡構造体」(構成要件BないしE)を備え、本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1) 「スポンジ状の連続気泡構造体」について
ア 辞書的意味等
 「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」(構成要件BないしE)につき、まず、「気泡」の字義は、「液体または固体中にあって気体を含む微小部分」(乙4の1、広辞苑第七版)あるいは「液体・固体の内部や表面にできる、気体を含んで丸くなったもの。泡(あわ)」(乙4の2、デジタル大辞泉)であり、「多孔質」の字義は、「多数の微細な孔をもつ物質」(乙4の1)である。
 なお、「スポンジ状」にいう、「スポンジ」は、「あかすり・食器洗い・クッションなどに使う海綿状のゴムまたは合成樹脂製品」であるとされている(乙4の1)。
 他方、本件明細書においては「スポンジ状の連続気泡構造体」に関しては、実施例の説明において、「多孔質体の素材としては、ウレタンフォーム、ゴム発泡剤フォーム、メラミンフォーム、EVAスポンジフォームなど多様なものがある。適度な連続気泡構造体の多孔質体を作れる発泡性能がある素材であれば他の素材でも良い。」旨の記載(【0024】)がある。

イ 構成要件の解釈
 上記の意義に加え、前記の本件発明の技術的特徴に照らすと、「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」は、ダニを捕獲するための粘着層及びその外側のダニが通過し得る粘着剤を含まない層を構成する部材として、一定の径を持つ「気泡」が「連続」する立体構造をもつ多孔質体をいうと解され、この構成が、本件発明1の課題解決手段として採用されたものと解される。

(2) 被告製品について
 被告製品は、前記のとおり、樹脂シートの両面に粘着剤を加工(塗布)し、その上に不織布を重層している構造を有している。
ア 不織布の構造等
 「不織布」は、日本産業規格(令和4年1月20日改正)の定義によると、「製織、編成及び製紙を除く、物理的方法及び/又は化学的方法によって所定レベルの構造的強さが得られている平面状の繊維集合体」である(乙3)。また、不織布は、1本ごとに独立に分散された繊維が接着剤や熱による接着、あるいは機械的な絡合によって形成された3次元の繊維集合体であり、多孔性で、繊維間に微小な空隙を無数に有することが構造的特徴である(甲9、10)。

イ 不織布が「連続気泡構造体」に該当するか
 上記不織布の構造的特徴からすると、不織布は、繊維が接着・絡合によって形成されたものであって、繊維間に微小な空隙を無数に有するという点において、多孔性を有する構造体ということはできるものの、固体(繊維)と固体(繊維)の間の空隙が径を観念できる「気泡」に相当するものとはいえないし、当該空隙は、個体(繊維)と個体(繊維)間に形成されたものであって、固体中に気体を含む微小部分があるとはいえないし、また、固体(繊維)の表面に気体を含んで丸くなったもの(泡)が形成されているともいえないから、「気泡」を備える構成であるとはいえない。
 したがって、不織布は、「連続気泡構造体」に該当しない。

ウ 原告の主張について
 原告は、連続気泡構造において気泡は連続的につながっているから球形である必要はない旨主張するが、連続的につながることで丸い形が維持されないことはあるとしても(乙7参照。なお、球形である必要はないと解される。)、個々の気泡は飽くまで「気体を含んで丸くなったもの。泡(あわ)」であり、被告製品の不織布において、固体(繊維)の内部はもちろん、固体(繊維)の表面についても、そのような気泡が形成されることを認めるに足りる証拠はない。

(3) 小括
 よって、他の点につき検討するまでもなく、被告製品は「連続気泡構造体」との構成を備えるものではなく、構成要件BないしEを充足しないから、本件発明1の技術的範囲に属しない。原告の主張は、理由がない。

【争点2-1(被告製品が、「メッシュ状の連続格子構造体」(構成要件HないしK)を備え、本件発明4の技術的範囲に属するか)について】

【原告の主張】
(1) 「メッシュ状の連続格子構造体」について
ア 「メッシュ状」について
 メッシュは「網の目」又は「網目織」を意味する(乙4の1)。また、「状」とは、名詞に付いて「…のような形である、…に似たようすである」を意味する(甲18)。
 よって、メッシュ状とは、「網の目」「網目織」のような形、あるいは、それに似たようすであることを指す。
 一方、不織布とは、織ったり編んだりしないでつくる、いわゆる織らない布をいい、その繊維は一方向又はランダム(規則性がないこと)に配向している(甲10)。
 被告製品の不織布の繊維は、拡大鏡や電子顕微鏡の写真(甲11の写真2~6)によれば、一方向ではなくランダムに配向しており、網の目のような形をしているから、「メッシュ状」に該当する。

イ 「連続格子構造体」について
 格子構造とは「ラティス(格子)構造」のことであり、枝状に分岐した格子を周期的に配置した立体構造を指し、規則的な形状だけでなく不規則な形状が含まれる(甲20)。
 このように、格子構造とは、単なる「格子」の「構造」、すなわち、格子が縦横に規則正しく連続している構造を意味するのではなく、不規則な形状を含むラティス構造を指す。

ウ 被告の主張について
 被告は、「格子」とは「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間をすかして組んだもの」を意味するとして、「連続格子構造体」の意義を、そのような「格子」が連続しているもの(縦横に規則正しく連続しているもの)と解している。
 しかし、「格子構造」という用語から「格子」だけを取り出し、それを「縦横に規則正しく連続しているもの」と2次元的に捉えることは、本件発明4が3次元構造であることと符合しない。また、「格子構造」の本来の意味から逸脱する。そして、不規則なラティス構造は、正に「網の目」あるいは「網の目のような形」といえる。

(2) 被告製品が、「メッシュ状の連続格子構造体」との構成を備えること
 被告製品は不織布を素材とし、その繊維間に無数の微小な空隙を有する多孔質体であるから、「メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体」に当たる。また、被告製品の内部には、粘着剤を含まないダニが通過し得る立体構造の通過層が存在し、上記空隙の孔径は300~3000μmである。(構成要件HないしK関係)
 したがって、被告製品の構成hないしkは、本件発明4の構成要件HないしKを充足する。

【被告の主張】
(1) 「メッシュ状の連続格子構造体」の意義
 「メッシュ」は、「網の目」又は「網目織」を意味する(乙4の1)。したがって、「メッシュ状」は、「網の目」又は「網目織」の状態のものを意味すると解される。
 「格子」は、「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間をすかして組んだもの」を意味する(乙4の1)。したがって、「連続格子構造体」は、そのような「格子」が連続しているものを意味すると解される。本件明細書には、「メッシュ状の連続格子構造体は、連続気泡構造体の多孔質体よりも規則正しい3次元構造である」との記載(【0053】)がある。
 以上のことからすると、「メッシュ状の連続格子構造体」とは、網の目又は網目織が縦横に規則正しく連続しているものを指すと解される。

(2) 被告製品が構成要件を充足しないこと
 「網の目又は網目織が縦横に規則正しく連続しているもの」の典型例は、一般的な織物、編物であるが、不織布は、「紙,織物,編物,タフト及び縮じゅう(絨)フェルトを除く。」とされ、一般的な織物、編物が除かれている。甲10の図1.1でも、一般的な織物、編物の図が示されており、これらは不織布には含まれないとされている。甲11に示されている被告製品の不織布も、網の目又は網目織が縦横に規則正しく連続しているものではない。
 原告は、格子構造とは、格子が縦横に規則正しく連続している構造を意味するのではなく、不規則な形状を含むラティス構造を指すところ、不織布の繊維はランダム(規則性がないこと)に配向し、網の目のような形をしているから、不規則なラティス構造(格子構造)と同じ形状である旨主張する。しかし、ラティス構造は、「枝状に分岐した格子を周期的に配置した構造」(甲20)、「周期的なパターンや配置を持つ立体構造」(甲21)とされており、不規則なものを含むとしても、パターン・配置に周期性があるものであるが、不織布の構造は、単なる「繊維集合体」であって(乙3)、パターン・配置に周期性はないから、ラティス構造とはいえない。
 したがって、被告製品の不織布は、「メッシュ状の連続格子構造体」に該当せず、被告製品は、本件発明4のかかる構成要件(構成要件HないしK)を充足しない。

【裁判所の判断】
5 争点2-1(被告製品が、「メッシュ状の連続格子構造体」(構成要件HないしK)を備え、本件発明4の技術的範囲に属するか)について
(1) 「メッシュ状の連続格子構造体」について
ア 辞書的意味等
 構成要件H等は、「メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体」と規定するところ、「メッシュ」の字義は、「網の目。網目織」である(乙4の1)。また、証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、「格子構造」とは「ラティス構造」を指すものと認められる。
 そして、「ラティス構造」とは、「枝状に分岐した格子を周期的に配置した構造」、あるいは「周期的なパターンや配置を持つ立体構造」を意味し、これらからすると「周期性」はその構成要素であるといえる。
 「格子」の字義は、「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間をすかして組んだもの」であり(乙4の1)、一般的には、規則性の強い構造が想定されるものの、不規則なラティス構造というものも存在しており、例えば、以下のような構造図が例として挙げられる(甲20、21)。

 これからすると、「格子構造」あるいは「ラティス構造」の語の意義としては、必ずしも規則性の強い構造のみを指すとは解されないものの、本件明細書の【0053】には、「メッシュ状の連続格子構造体は、連続気泡構造体の多孔質体よりも規則正しい3次元構造である」旨の記載があることに照らすと、本件発明4の「連続格子構造体」は、一定程度の規則正しい構造を備えていることは想定されているものと当業者は理解するというべきである。

イ 構成要件の解釈
 上記の意義に加え、前記の本件発明4の特徴を考慮すると、「メッシュ状の連続格子構造体」は、ダニを捕獲するための粘着層及びその外側のダニが通過し得る粘着剤を含まない層を構成する部材として、一定の径と規則性・周期性を持つ「格子」が「連続」する立体構造をもつ多孔質体をいうと解され、この構成が、本件発明4の課題解決手段として採用されたものと解される。

(2) 被告製品の構成について

被告製品に用いられる不織布の構造的特徴等は前記のとおりであるところ、不織布の1本ごとに独立に分散された繊維が接着剤や熱による接着、あるいは機械的な絡合によって形成された3次元の繊維集合体であって、多孔性で、繊維間に微小な空隙を無数に有するという構造的特徴に照らすと、その構造に、規則性や周期性があることはうかがわれない。
 実際の被告製品の不織布について見ても、同不織布は、電子顕微鏡で観察すると別紙「被告製品の構造(認定)」の写真2のような構造を有しており、繊維が複雑に絡み合っているところ、かかる構造に一定程度の規則性や周期性があることを認めるに足りる証拠はない。また、上記構造が、ラティス構造の意義における「枝状に分岐した格子」に当たるかは疑義があるし、仮にこれに当たり得るとしても、少なくとも「周期的に配置した構造」あるいは「周期的なパターンや配置を持つ立体構造」であると認めるに足りる証拠はない(原告自身、被告製品の不織布の繊維はランダムに配向している旨主張している。)。

(3) 小括
以上によると、被告製品は、「連続格子構造体」との構成(構成要件HないしK)を備えるとは認められない。この点に係る原告の主張は、理由がない。

【所感】

 本件では、被告製品の不織布が「多孔性」を有すること自体は否定されていない。しかし、裁判所は、「多孔質体」であることと「連続気泡構造体」又は「連続格子構造体」であることを区別し、不織布の繊維間空隙は「気泡」ではなく、また、不織布のランダムな繊維集合体には「格子」に求められる規則性・周期性が認められないとして、構成要件の充足性を否定した。
 この点からすると、明細書作成時には、発明者から提示された具体的な発明品の形状・素材に引きずられすぎないことが重要である。たとえば、発明者からあげられた発明品がスポンジ状の部材であったとしても、発明の本質がスポンジという素材それ自体ではなく、「ダニが通過可能な三次元の連通空隙を有し、その内部又は近傍でダニを捕獲する」という作用効果にあるのであれば、同様の作用効果を奏し得る他の材料・構造を発明者から丁寧に聞き出すことが望ましい。
 また、「格子構造」のような用語を用いる場合には、その用語が「規則正しい構造」に限定して解釈されないよう、定義や実施形態の記載に注意する必要がある。特に、発明の作用効果が、規則的な格子配列そのものではなく、ダニが通過可能な三次元的な網目状空隙を有することにあるのであれば、「規則正しい」といった表現は不要であると考える。
 本件のように、明細書中に「規則正しい3次元構造」といった記載があると、裁判所はこれを構成要件解釈の根拠として用いる可能性がある。したがって、明細書作成実務においては、発明者が持参した試作品や提案書の具体的な構造を出発点としつつも、「同じ作用効果を奏する代替物は何か」「競合他社ならどのような材料・構造で置換するか」を意識してヒアリングし、上位概念、代替例、非限定的な定義を明細書に盛り込むことが重要であると改めて認識させられた。