知財レポート
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- 知財判決例-審取(当事者系)
車両誘導システム 審決取消請求事件
事件の概要
| 判決日 | 2025.09.08 |
|---|---|
| 事件番号 | R6(行ケ)10086 |
| 発明の名称 | 知財高裁第1部 |
| キーワード | 分割出願 |
| 事案の内容 | 本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決が取り消された事案である。本件特許は、第7世代分割出願に係る特許であり、本件の争点は、第5世代分割出願の分割要件違反を前提とした新規性欠如に関する判断の誤りの有無である。 |
事案の内容
【手続の経緯】
平成16年 9月13日 最初の原出願 (特願2004-300749号)
平成20年11月28日 第1世代分割出願(特願2008-303530号)
平成23年12月28日 第2世代分割出願(特願2011-287837号)
平成25年 2月12日 第3世代分割出願(特願2013-024483号)
平成26年 4月23日 第4世代分割出願(特願2014-089069号)
平成26年12月 2日 第5世代分割出願(特願2014-243621号)
平成27年 5月13日 第6世代分割出願(特願2015-098590号)
平成28年 4月 4日 第7世代分割出願(特願2016-075107号)(本件出願)
平成29年 6月16日 設定登録(特許第6159845号)
令和 4年10月21日 特許無効審判請求(無効2022-800083号)
令和 6年 8月13日 特許維持審決
令和 6年 9月19日 審決取消訴訟提起

【特許請求の範囲】
第5世代分割出願に係る請求項1の記載(平成28年2月4日付け手続補正書による補正後のもの)を下に示す。
【請求項1】
一般道路から有料道路のパーキングエリア又はサービスエリアに向かう入口側のレーンに設けられたETC専用の入口料金所を有するスマートインターチェンジにおいて、
車両が前記入口料金所から離脱しえる手段として前記入口側のレーンの途中から分岐して前記一般道路に戻るレーンを設けることで、前記入口側のレーンを三叉路型レーンとし、
前記三叉路型レーンにおける分岐前の一カ所と分岐した先の左右二カ所とのそれぞれに、遮断機を設け、前記分岐前の前記入口側のレーンに設けられた車両検知装置により車両が検知されることを契機として、それまで閉じていた前記分岐した先の左右二カ所の前記遮断機の一方は閉じたままで他方が開くことを特徴とする、スマートインターチェンジ

【審決の概要】
審決では、第5世代分割出願の分割要件違反の有無について、「第5世代請求項1には、ETCシステムの異常動作の検知手段等や分岐前の遮断機を開けるタイミングを特定する事項は記載されていないが、これは、第4世代当初明細書等及び第4世代分割直前明細書等に記載された発明の中から、車両検知装置と遮断機とを利用して、車両を入口側レーンをそのまま走行させるか戻り路に戻すかのいずれかに誘導するようにした誘導手段に関する発明のみを取り出して第5世代請求項1に記載したためである。第5世代発明1は、上記検知手段等やタイミングを特定しなくても上記誘導手段として機能することは明らかであるから、これらを特定する事項が記載されていないことをもって、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。」として、最初の原出願(特願2004-300749号)の出願公開公報を引用例とする新規性欠如の無効理由には該当しない、と判断された。
【裁判所の判断】
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(分割要件違反を前提とする新規性判断の誤り)について
(1) はじめに
分割出願は、原出願の時にしたものとみなされるところ(特許法44条2項本文)、そのためには、分割出願に係る発明が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。具体的には、当業者にとって、原出願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、分割出願に係る発明が、新たな技術的事項を導入するものでないことを要する。
そこで、以下、まず、分割出願に係る発明である第5世代分割出願に係る発明について検討し、これが第4世代当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものであるか否かを検討する。
(2) 第5世代分割出願に係る発明
ア 第5世代分割出願の特許請求の範囲の記載(平成28年2月4日付け手続補正書による補正後のもの。甲2の5)は、別紙2(第5世代分割出願の特許請求の範囲)のとおりである(以下、これら請求項1~3に記載された発明を併せて「第5世代各発明」という。)。
イ 上記の特許請求の範囲の記載によると、第5世代各発明は、いずれも、ETC専用の入口料金所、出口料金所又はその双方を有するスマートインターチェンジであって、当該料金所が設けられるレーン(以下「本レーン」という。)及び本レーンから分岐して車両が戻るレーン(以下「分岐レーン」という。)からなる三叉路型レーン、三叉路型レーンの分岐前の1か所と分岐した先の左右2か所に設けられた遮断機並びに三叉路型レーンの分岐前の本レーンに設けられた車両検知装置をその構成に含み、車両検知装置により車両が検知されることを契機として、分岐した先の左右2か所に設けられた遮断機のいずれかのみを開くものとして記載されている。
他方、第5世代各発明では、少なくとも、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合がいかなる場合であるか(第4世代当初明細書等の【請求項1】「路側アンテナと車載器と間で通信不能又は通信不可が発生したとき」)や、②車両を戻すべき場合に当たるか否かをETCシステムの無線通信により判定すること(同【請求項3】「前記路側アンテナは、車載器との間で無線通信可能か否かを判定するためのゲート前アンテナと入口情報及び料金情報の送受信を行なうETCアンテナとを有している」のような事項)が、発明特定事項として記載されていない。
ウ したがって、第5世代各発明においては、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合についての限定がなく、②戻す対象となる車両を判定する方法についての限定もないということになる。
(3) 第4世代当初明細書等の記載
ア 第4世代当初明細書等(甲6)の記載は、別紙3のとおりであるところ、その要旨は次のとおりである。
(ア) 本発明は有料道路の出入口に設置されたETC車用出入口に利用される車両を安全に誘導する車両誘導システムに関する。(【0001】)
(イ) 近年、有料道路の料金所に設置され始めたETCシステムは、料金所ゲートに設置した路側アンテナと、車両に装着した車載器との間で無線通信を用いて自動的に通行料金の決済を行い、料金所をノンストップで通行することを可能とする。多くの有料道路では、入口料金所で、路側アンテナから車載器に入口情報を無線送信し、有料道路を走行後、出口料金所で、車載器から路側アンテナに入口情報を無線送信し、別途備える料金計算コンピュータで料金計算を行って、その料金情報を路側アンテナから車載器に向けて無線送信している。(【0002】、【0003】)
(ウ) 有料道路の料金所のレーンには、①ETC車専用レーンと、②ETC車(ETCによる料金徴収が可能な車両)も一般車(ETCシステムを利用できない車両)も混在して通れるレーンと、③ETCシステムを利用できないレーンとが混在している。一般車や、車載器が路側アンテナと正常通信できないETC車が①のレーンに進入すると、開閉バーが下りて進行できなくなり、料金所の渋滞が助長されるほか、止められた車両がバック走行をして後続の車両と衝突する危険がある。(【0006】~【0008】)
(エ) 本発明は、一般車又はETCシステムが正常に動作しないETC車がETC車用出入口に進入した場合(路側アンテナと車載器の間で通信不能・不可)でも、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、例えば、逆走車の走行を許さず、あるいは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘導システムを提供することを目的とする。(【0010】、【0011】)
上記目的に鑑み、本発明に係る車両誘導システムは、有料道路の料金所にETC車用レーンを有するインターチェンジに利用される車両誘導システムであって、路側アンテナと車載器との間で通信不能又は通信不可が発生したとき、車両が前記ETC車用レーンから離脱し得る手段を設けたことを特徴とする。離脱し得る手段は、ETC専用レーンから分岐して車両が料金所へ再進入するレーン又は一般車用レーンへ誘導されるレーンとすることができる。路側アンテナは、車載器との間で無線通信可能か否かを判定するためのゲート前アンテナと入口情報又は料金情報の送受信を行うETCアンテナとを有するようにすることもできる。(【0012】~【0014】)
さらに、本発明に係る車両誘導システムは、ETC車載器搭載車が一般道路と有料道路との出入りをする時に、ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムであって、一般道路と有料道路との出入りをする車両を検知する検知手段と、車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と、前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と、前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って一般道路から有料道路へ入る、又は有料道路から一般道路へ出るルートへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口へ誘導する誘導手段を備え、前記検知手段により車両の進入が検知された場合、遮断機を下ろすことにより、進入した車両のバック走行と後続の車両の進入を防ぐことを特徴とする。(【0017】)
(オ) 発明を実施するための最良の形態としては、有料道路の入口料金所で使用するETCシステムを利用した車両誘導システム、出口料金所で使用する車両誘導システムがあり、更に応用例として、逆進入防止機能を充実させたインターチェンジ、スマートインターチェンジ、有料駐車場等がある。(【0030】~【0069】)
イ 以上のとおり、第4世代当初明細書等には、ETC車専用レーンにETCを利用できない車両が進入すると渋滞や後続車との衝突の危険があるという課題に対し、その解決手段として、これらのETCを利用できない車両がETC車専用レーンから離脱し得る手段を設け、離脱手段としてETC専用レーンから分岐するレーンを設けることや、車両の進入を検知した場合に遮断機を下ろすことにより車両を誘導すること等が記載されており、ETCを利用できない車両を検知したときに、この車両をETC車専用レーンから離脱させるべく誘導する車両誘導システムが開示されていると認められる。また、ETCを使用できない車両を検知し、これを判別する方法としては、【0010】や【0012】にみられるように、「路側アンテナと車載器との間で通信不能・不可」であるか否かによって行うとしており、その実施形態の説明のうち【0031】~【0053】、【0066】~【0068】、【図3】~【図8】、【図12】において、車両がETCによる無線通信が可能か否かによって行うことが開示されており、また、逆進入防止機能を充実させたインターチェンジの実施例である【0054】~【0062】、【図9】、【図10】、スマートインターチェンジの車両誘導システムの実施例である【0063】~【0065】、【図11】も、「図9は、図4の変形例」(【0055】)、「一般車レーンB、Cが無いことを除き、入口料金所12のレーン(A→D)と(A→E)の役割、及び出口料金所13のレーン(A→D)と(A→E)の役割は、図3、4、6及び7のそれと同じである」(【0064】)とされており、いずれも車両がETCによる無線通信が可能か否かによって誘導されることが前提とされている。
そうすると、第4世代当初明細書等には、渋滞や後続車との衝突の危険という課題を解決するため、ETCを利用できない車両をETC車専用レーンから離脱させる車両誘導システムの発明において、具体的な課題解決手段として、①ETCを利用できない車両がETC車専用レーンに進入した場合に、当該車両を、分岐レーンを走行させて戻すという事項、及び、②戻す対象となる車両は、ETC車載器と路側アンテナとの無線通信が可能か否かにより判定するという事項がそれぞれ記載されていると認められる。そして、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合しても、他に、分岐レーンを走行させて車両を戻す場合や、戻す対象となる車両を判定する方法を開示し、又は示唆する記載はないから、上記①及び②の事項は、第4世代当初明細書等に開示された発明において、課題解決のために必要不可欠な構成であるというべきである。
(4) 新たな技術的事項の導入について
上記(3)イのとおり、第4世代当初明細書等には、車両誘導システムの発明において、①ETCを利用できない車両がETC車専用レーンに進入した場合に、当該車両を、分岐レーンを走行させて戻すという事項、及び、②戻す対象となる車両は、ETC車載器と路側アンテナとの無線通信が可能か否かにより判定するという事項が、必要不可欠な構成として記載されていると認められる。すなわち、第4世代当初明細書等には、上記①及び②を必須の構成としない技術思想は、開示されていないというべきである。
これに対し、上記(2)ウのとおり、第5世代各発明は、一般道路から有料道路のパーキングエリア若しくはサービスエリアに向かう入口側のレーンの途中から分岐する一般道路に戻るレーン、又は有料道路のパーキングエリア若しくはサービスエリアから一般道に向かう出口側のレーンの途中から分岐するパーキングエリア若しくはサービスエリアに戻るレーンを設けた三叉路型レーンにおいて、分岐した先の左右2か所の遮断機の開閉に関して、判定手段を特定しないことで、ETCシステムの路側アンテナと車載器との間の無線通信の不能又は不可が発生しているかの判定を伴うことに限らない任意の基準・方法によって、遮断機の一方は閉じたままで他方が開いて、本レーンをそのまま走行するか、分岐レーンに進むかを誘導するという新たな技術的事項を導入するものであり、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合についての限定がなく、②戻す対象となる車両を判定する方法についての限定もないのであるから、これら2点の構成において、第4世代明細書等に記載された必須の構成を、無限定に上位概念化させていることとなる。
したがって、第5世代各発明は、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものというべきである。
(中略)
(6) 小括
以上のとおり、第5世代各発明は、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものであるから、第5世代分割出願は、特許法44条2項本文の適用を受けることができず、その出願日は、現実の出願日である平成26年12月2日となる。そうすると、第7世代の分割出願に当たる本件出願の出願日も、平成26年12月2日までしか遡及し得ないこととなる。
そして、平成26年12月2日より前に日本国内において頒布された甲9(最初の原出願の公開特許公報である特開2006-79580号公報)の【請求項6】、【0031】~【0053】、【図3】、【図4】、【図6】及び【図7】には、有料道路料金所に設置されているETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムにおいて、判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所に入る、又は前記有料道路料金所から出るルートへ通じるレーンへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じるレーンへ誘導する誘導手段が記載されており、本件発明1及び2それぞれの構成を含む、有料道路料金所に設置された車両誘導システムの構成が記載されており、また、同【0063】~【0065】には、同じ構成の車両誘導システムをサービスエリア又はパーキングエリアに設置できることが記載されている。そうすると、本件各発明は、いずれも、甲9に記載された発明であって、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、無効理由1には理由があり、これを成り立たないとした本件審決には取り消すべき違法がある。
【所感】
最初の原出願の出願公開後に分割出願を行う場合には、当該分割出願が分割要件を満たさないと、当該分割出願だけではなく、そこから派生する分割出願でも、最初の原出願の出願公開公報を引用例として分割出願に係る発明の新規性が否定され得るため注意が必要である。特に、当該分割出願が分割要件違反となる事項を含んだまま拒絶査定や無効審決が確定すると、補正や訂正により分割要件違反を解消する機会がなくなるため注意が必要である。