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蒟蒻芋とコンニャクのこと

 このトピックスでは、私の趣味について書くことも多く、その大部分は、何かを作っている話だ。これまでも紅茶だとか、燻製だとか、革細工だとか、いろいろ書いてきた。そこで、今回は、蒟蒻芋からコンニャク作る話を。以下、原料となる蒟蒻芋は漢字で、できあがって食べられるものはコンニャクとカタカナで、それぞれ表記する。
 コンニャクは蒟蒻芋から作る。そのことは知っていた。以前、「こんにゃくの中の日本史」(講談社新書、武内孝夫、2006年)とかいう本を読み、江戸時代に、蒟蒻芋を荒粉にして保存する方法を発明した中島さんという人がいたこと知った。江戸時代に特許法があれば、製法特許になった筈だ。それから綿々と日本人は、蒟蒻芋を育て、コンニャクを食べてきた。
 しかし、蒟蒻芋を作るのは容易ではない。蒟蒻芋は収穫まで、三年から四年かかる。名古屋より東だと冬の寒さが厳しいので、冬の訪れを前に畑から蒟蒻芋を掘り出して納屋に入れて保存し、春先にはまた畑に戻す。これを数回繰り返して、コンニャク作りに適した蒟蒻芋がやっと収穫できる。作るだけでも大変なのだ。しかも、蒟蒻芋に素手で触ると強い痒みに襲われる。当然食べるためにはしっかりあく抜きをする必要がある。他方、コンニャクには栄養価はあまりない。コンニャクでダイエットという本もあるくらいだ。
 では、そんな手間のかかる、取り扱いも大変で、しかも食べても栄養にならないコンニャクを、なぜ日本人は食べ続けてきたのか。「こんにゃくの中の日本史」を読んでも、その理由は分からなかった。
 それから数年経ち、蒟蒻芋から目の前で手作りされたコンニャクを頂く、という機会があった。そのとき疑問は解けた。手作りされた出来たてのコンニャクは、驚くほど美味しかったのだ。なるほどこれなら、日本人が愛してきたのは分かる、手間がかかっても育ててきた理由は分かる、と思った。だが、それは手作りの、出来たてのコンニャクに限られる。コンニャクの美味しさに目覚めた私は、その後、町のスーパーマーケットなどで、「刺身コンニャク」といった表示を見つけると何度も買って食べたのだが、全く別物だった。両者のギャップは驚くほど広い。
 ならば作って食べるほかないではないか。しかし、しかしである。作ろうにも蒟蒻芋というものは、スーパーなどでは売っていない。通販では買えるみたいだが、10キロ単位に箱を買うまでは踏み切れない。何しろ1つ500グラムくらいの蒟蒻芋から、4キロのコンニャクができるのだ。ごくたまに、知り合いの農家で頒けて頂くことがあった。ところが、何度か試みたのだが、コンニャクにならない、という事態が続いた。しかも、できない理由が分からない。農家で、手練れの方と一緒に妻が作ると上手くできる。しかし、自宅で作ると失敗する。細々したことを聞き、言われた通りに鍋を洗い、凝固剤を用意して勇躍コンニャク作りに取りかかるのだが、なぜか失敗する。数回も失敗が続くと心が折れた。妻は、もはやコンニャク作りに手を出さない。
 こうして数年が過ぎた。ところが(この文章、逆説が多すぎる)、最近になって、身近なところに「実家が蒟蒻農家です」という人がおられることを知った。手作りのコンニャクが如何に美味いか、ということを話し合って喜んでいたら、蒟蒻芋を取り寄せて下さったのだ。しかも凝固剤に手袋まで付けて。今回は、いままでのレシピを捨てて、ネットで拾ったレシピを使ってみることにした。すると、なんと、ちゃんとコンニャクになった。もちろんあの忘れられない美味しいコンニャクだ。こうして我が家の食卓は、ようやく、江戸時代からの伝統につながった。これからも時々、手作りしようと思う。ダイエットにもなるみたいだし。[ T.S ]

 

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投稿日:2023年02月21日