2024年4月
« 3月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

検索

カテゴリー

トピックス

独裁が生まれる前に

 ロシアのウクライナ侵攻が始まってから既に2週間が過ぎた。考えることが多いい。一つは、独裁的な政権による厄災を回避するためには、その厄災が始まる時点よりもっともっと前まで遡らなければならない、と言うことだ。どの政権も、最初から独裁的であることは少ない。ナチスドイツも、当時最も民主的だと言われたワイマール憲法の下で成長し、独裁体制を作り、国外へ侵攻した。独裁体制ができてからその体制を倒したり、国外への侵攻が始まってから戦争を止めたりすることは、大きな困難と犠牲を伴う。もっともっと前に、独裁的な政治体制が生まれないようにしなければならない。では、独裁的な体制を目指す動きがある、ということをどのように判断したらよいのだろうか。一つの兆候は、政治的なトップの任期の上限を撤廃しようとしていることだ。もう一つは、これと裏腹だが、一人の指導者が様々な権限を兼ねられるようにしようとすることだ。どんなに有能な指導者がいたとしても、その地位に留まれる期間や兼ねられる役職は制限すべきなのだ。
 「どんなに有能な指導者がいたとしても」、と書いて思い出すのは、「ルワンダ中央銀行総裁日記」(中公新書・1972年)という本のことだ。著者は、国際通貨基金の要請で、ルワンダ中央銀行の総裁に就任する。当時の大統領の信認を受けて、腐敗を排し、アフリカの新興国・ルワンダの経済を立て直し、経済振興を図っていく姿は、痛快だ。著者は、「財務大臣や経産大臣や国土交通大臣みたいな、いろいろな権限を大統領から付与されて、次々に自分で考え自分で実施していく」と評されてもいた。同じ日本人の活躍にわくわくして読んだが、読み終わったとき、感じたのは、「これは良い独裁ではないか」ということだった。良い独裁は、効率が良い。腐敗を排し、国民のためを本当に考えて権限を振るう為政者の姿はまぶしい。しかし、それは独裁なのだ。民主主義や権限の分散は効率が悪いかも知れないが、効率が悪くても、時に政権交代と共に政策がぶれても、それは良い独裁よりも、権限を過度に集中することで実現される効率な政治体制よりも遙かにましなのだ、と私たちが考えなければならない。
 それにしても、毎日届く映像は痛ましい。ウクライナの人々と国土とがミサイルを初めとする軍事力で痛めつけられていることは言うまでもないが、意味のない戦いに命を晒しているロシア兵をも含み、映像を見て、せいぜい国連UNHCR協会に寄付する程度の支援しかできない私たちの現在と、私たちの後に連なる若者たちの未来が、深く傷つけられている。[ T.S ]

 

トピックス

投稿日:2022年03月15日