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毒入り分割出願

 やや古い話になって恐縮だが、昨年末にEPの拡大審判部の審決(G1/15,2016/11/29)があり、いわゆる毒入り分割出願の問題が解決されたことが話題になっていた。
 「毒入り分割出願(poisonous divisional)」とは、基礎出願(仮に「JP1」と呼ぶ)の優先権を主張してEP出願EP1を行い、そこから分割出願EP2を行って公開されると、親出願EP1の特許が分割出願EP2から新規性無しとして無効にされてしまう、というものである。日本の感覚からすれば「そんなバカな」と思われるが、先行する拡大審判部審決(G2/98,2001/5/31)においてこの問題に関連する部分優先権の判断基準が示されてから、ずっと関係者を悩ませていた問題であった。
 
 そもそも毒入り分割出願が発生するのは、以下のような状況の場合である。
・JP1(基礎出願):aを記載
・EP1:aを含む上位概念のAをクレーム
・EP2:EP1の分割(クレームは無関係)
 
 「毒入り分割出願」の問題に至る従来の解釈は以下の通りである。
<従来の解釈>
 EP1のクレーム「A」は、JP1には記載されていなかったので、その有効な出願日はEP1の出願日である。
 EP2が公開されると、JP1に記載されていたaの部分については、EP2がEP1の先行技術(EPCの用語では「技術水準」)となる。日本の29条の2(拡大先願)の規定と異なりEPCでは自己の出願についての適用除外が無いので、このような状況が起こり得る(いわゆるセルフコリジョン)。
 EP1のクレーム「A」のうち「a」の部分は先行技術(EP2)から新規性が無いので、クレーム「A」全体の新規性が否定される。
 
 今回の拡大審判部審決(G1/15)は、EP1の包括的なクレーム「A」について部分優先権が認められるという判断であり、包括的なクレームについて部分優先権を認めないとした拡大審判部審決(G2/98)の判断基準を緩和したものである。
 今回の判断基準によると、EP1の新規性は以下のように解釈される。
<新たな解釈>
 EP1のクレーム「A」を以下の2つの部分に分けて個別に新規性を考える。
(1)「a」の部分:
 「a」の部分はJP1からの部分優先権が有効であり、EP2から新規性は否定されない。
(2)「a」以外の部分:
 「a」以外の部分には優先権は無いが、EP2の開示内容のうちでEP2の公開により先行技術となるのは「a」の部分のみなので、この先行技術から新規性は否定されない。
 この結果、EP1のクレーム「A」のうち、「a」の部分も「a」以外の部分も両方ともEP2から新規性が否定されることは無い。
 この新たな解釈のポイントは、「a」の部分と「a」以外の部分とに関して個別に新規性を考える、というところにある。この解釈は、EP1の包括的なクレーム「A」の一部に部分優先権が認められる、という拡大審判部審決(G1/15)の判断から導かれる。
 
 日本では、クレームを複数の部分に分けてその部分毎に新規性の有無を判断する、という手法は採用されないので、EPの考え方は面白いと改めて感じられた審決であった。
[ T.I ]

 

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投稿日:2017年07月11日