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最適化

 4月の初頭に我が家に女の子が生まれました。
 
 出産は、当初は、家から徒歩十分少々の近所の産婦人科でする予定でした。しかし、その近所の病院に入院して午前中から陣痛促進剤を使用してもあまり効かなかったため、その日の夜になって、急きょ大きな病院に救急車で移送されました。そして、次の日の夜、再度チャレンジしたのですが、やはり薬があまり効かないようで、結局、自然分娩はあきらめて、帝王切開で出産とあいなりました。
 
 私は、つれあいが大病院に移送された日の午前中から近所の産婦人科に行っていたのですが、そこからわずか36時間程度の間に、(i) 近所の産婦人科の医師とその助産師・看護師チーム、(ii) 移送された先の大病院の産婦人科のその夜の当直の医師と助産師・看護師チーム、(iii) 翌日夜の大病院の産婦人科の当直の医師と助産師・看護師チーム、(iv) 大病院のNICU(新生児集中治療室)の当直の医師と看護師チーム、の4組の医師と助産師、看護師から説明を聞くことになりました。
 
 いずれの先生および助産師さん、看護師さんも、いまどういう状況にあって、今後、どういうことが起こりうるか、いつまでにどういう決断をする必要があって、それぞれの選択肢はどういうものであるのかを、とても丁寧に説明してくれました。いまどういう状況かという説明一つとっても、こういう事態はどれくらいの頻度で生じるものか(ごくあたりまえに、このくらいの割合で生じる事態であって、決してまれなことではないし、不運だとかいうことでもない)、自分は過去にもこういう状況に対応したことかあって、そのときもちゃんとうまくいったとか、どの選択肢を選んでも決して心配する必要はない、など、同じ話を何度も何度もしながら、少しづつ少しづつ話を進めていきます。同じ話を繰り返す合間には、「何も心配することはない」、「大丈夫だ」ということを、何度も何度も言ってくれます。4チームのどの医師も、助産師さん、看護師さんもそうでした。簡潔明瞭を旨とする弁理士や技術系の人間の書く文章、話し方とはずいぶん違います。しかも、くりかえしが多いのに相手をいらだたせない上手な話し方をします。ものすごく大変な状況に置かれているお母さんやその家族は、とにかく不安におそわれがちなので、産婦人科の先生、助産師さん、看護師さんたちはみんなこういう話し方になるのでしょう。状況を正しく伝えて理解してもらうための「説明」という同じ作業であっても、その職業に合わせた最適化というものは、あるものだなあ、くりかえしが多いのに相手をいらだたせない話し方というのは、たいしたスキルだなあ、と思いながら聞いていました。説明していただいた内容は、とてもよくわかりましたし、こちらからの質問にも丁寧かつ的確に答えていただけました。おかげで、誰よりも先に(手術後のつれあいよりも先に)NICUの保育器の中にいる娘と対面をしたときも、疑問点や不安なく対面することができました。
 
 しかし、何度も何度も同じ話がくりかえされてなかなか先に進まない医師たちの説明に私がいら立ちを覚えなかったのは、ほかでもない私自身が、心の奥底で、彼らによってくりかえされる「決して心配することはない」というその言葉を必要としていたからかもしれません。
 
 4日後、娘は無事、NICUを卒業しました。[ K.H ]

 

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投稿日:2016年05月24日