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意思決定を支配するもの

 まず、つれあいが発症して新型コロナウイルスの陽性判定を受け、念のため、と受けた検査で上の子(6歳)が陽性判定(ただし、無症状)、下の子は陰性判定。気をつけていたつもりですが、その後、私自身が発熱し、検査の結果、陽性となりました。自宅待機期間を過ぎてしばらくたちますが、いまだ調子がよろしくないです。
 
 小さい子供に対して、「これは、毎回、必ずやりなさい。」、「これは、絶対してはいけません。」といっても、うっかりやらなかったり(これは大人でもありますが)、そのルールの重要性、ルールを守らなかった場合に生じ得る事態を理解できていないために、自分の「○○をしたい」という気持ちにそのルールが消し飛んでしまったりで、なかなかうまくいきません。論理にしたがって行動しない(部分が大きい)相手には、いくら理を持って説いて聞かせても、十分に確度の高い行動の規制には結びつきません。
 
 人の中には、論理にしたがって行動する部分と、論理ではないものにしたがって行動する部分との両方があり、人によって、その割合や、それらが主たる意思決定の要因になる場面が違うのでしょう。各人の中にその両方があるということは、様々な人種や年齢を含む人の集団においては、あるテーマについて、論理にしたがって行動する人たちと、論理ではないものにしたがって行動する人たちが、それぞれある割合で含まれるということです。
 
 何かの目的のために、できるだけ多くの人を、そして、できるだけどんな人についても、同じように行動を規制することはできるのでしょうか。
 
 そのための手段の一つは、「物語」なのだろうな、と思います。もっと具体的には「(その人にとっての)恐怖に結びついた物語」です。生き物は、恐怖の対象を避けることで、何世代も生き延びてきたはずです。そのため、恐怖を認識させることによって、人は、行動を制御されるのでしょう。たとえば、「夕暮れどきに川辺に行くと、河童に川に引きずり込まれるぞ」とか、「夜、爪を切ると親の死に目に会えないぞ」とかいう物語は、それを聞かされる人が感じる恐怖によって、人(多くの場合は、合理的に行動しない子供)の行動を規制するための、ツールなのでしょう。もっとも、「物語」は、その背景となる文化を共有していないと、力を持ちません。川に棲むという河童を知らない人に河童の話をしても、行動は制御できません。「子供は親を看取るべし」という文化を持っていない集団においては、「~すると、親の死に目に会えない」という物語は意味がありません。
 
 現在においては、「科学」がそういう「物語」に取って代わっている、という話も見聞きします。「科学」は、個々の文化を越えて様々な集団に広く共有され得るという意味で、汎用性がありますが、個々の集団単位で見ると、「科学」を信じない人は、昔の共同体において物語を信じなかった人の割合と同程度か、もっと多くいるのかもしれません。なお、科学は、検証や反証が可能なものであるはずなので、「信じる」というのとはちょっと違いますが、共同体の構成メンバー各人は何もかも自分で検証しているわけにはいきませんから、ある程度、「その話に乗っかる」、つまり「信じる」ことによって、意思決定をしているのだと思います。
 
 何かの目的のために、できるだけ多くの人を、そして、できるだけどんな人についても、同じように行動を規制するのは、やはり、科学を含む「物語」なのだろうなあ、と思います。「陰謀論」も、合理的な判断よりも「恐怖に結びついた物語」を信じたい人たちによって、多く支持されているようですし。「ご先祖様が成仏していないが、あなたがこれを買ってお祀りすれば成仏する」という物語も、昔からありますが、いつまでもなくならないようですし。かの国の指導者の心は、「このままでは、我が国は周りを包囲されて、いつか攻め込まれる」という恐怖の物語に、支配されたのかもしれません。
 
 神のように、この世のあらゆる情報を判断材料とすることができず、入手した判断材料に基づいて無限の資源を使って判断することができないために、人類は、高度に合理的には行動せず、そこそこ(?)合理的に行動し、一定以上の場面で非合理的に行動することの積み重ねで、これまでのところ、生き延びてきたのでしょう。そして、この先もそのやりかたでやっていくのだろうなあ、などと、発症後数日間、布団の中で、熱のあるアタマでつらつら思ったのでした。ネット上のあらゆる情報にアクセスでき、ネットに接続されたあらゆるプロセッサを使用できるAIが誕生したら、それは少なくとも人類レベルとは異なる高度な判断をすることができるのでしょう。でも、人類の多くは「いやなものは、いや。」、「よく分からないけど、なんとなくイヤ。」といって、その判断は採用しないのでしょうね。[ K.H ]

 

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投稿日:2022年08月30日