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微生物と食材

 我が家は、昔からいろんな食材を自分たちで作ってきた。ここ数年、だんだん病膏肓というか、深みに嵌まっている。最近、発酵バターとパンチェッタを作った。発酵バターは、まずヨーグルトを作る。ヨーグルトは既に10年以上作っている。最初は、LG21という市販のヨーグルトを牛乳に加えて、増殖させていたが、最近は専らR-1だ。そうやって作ったヨーグルトを、生クリームに入れて、サワークリームにし、若干の塩を加えて攪拌し、バターにする。できたら、生クリームではなく、牛乳から作りたいが、ホモジナイズされた牛乳では脂肪分が固まらないからバターにはならない。発酵バターはなかなか美味しかった。
 バンチェッタは、燻製でベーコンを作っているので、比較用に燻製しないで作るとどんな感じか、作ってみた。燻製ももう10年以上になる。燻製の中で一番は、ロースハムだが、スモークサーモンやベーコンもお勧めだ。パンチェッタは、燻製する必要がないので、都会で、もうもうと煙を上げられない、という場合は良いかもしれない。燻製にした方が香り高いが、パンチェッタもなかなか美味しかった。
 妻は、もう何年も前から味噌を手作りしている。我が家の味噌はかなり美味しい。「手前味噌」という言葉があるが、まさにそういう感じだ。最近は、同じ大豆を原料に、豆腐作りに嵌まっている。しかしこちらはなかなか上手く固まらず、試行錯誤を繰り返している。この他、餅米と麹から塩糀を造ったりもするが、これにスルメや揚げを漬けるとタンパク質が分解されて、ちょっと説明しがたいほど美味くなる。
 こんな風に我が家で自作している食材はまだまだあるが、きりがないので、この辺でやめる。こうして挙げてみると、微生物を使ったものが多いことに気づく。ヨーグルト、味噌、塩糀、みんなそうだ。微生物の作用は、化学薬品を加える反応とは違うから、毎回同じということはなかなか難しい。気温や湿度、他の雑菌の有無など、環境によって働きは変動する。最初はなかなか上手くいかず、試行錯誤することも多い。そのうちにちょっとしたコツみたいなものが分かり、急に安定する、といったことも経験してきた。作っている時に僅かな違いが生じることもあり、それを見逃さないことが結構重要だ。例えば、ヨーグルトについて言うと、我が家はヨーグルトメーカーなんか使わないから、温度や時間などは、試行錯誤しながら、適切な条件を探してきた。市販の牛乳を使っていて、あるとき滅多に買わない会社の牛乳を使ったら、できあがりが妙に滑らかだった。「たまたまかな」とも思ったが、「もしかすると」とも思い、その会社の牛乳を重点的に使って条件を変えていったら、どんどん上手くできるようになったと言うことがあった。他社のものと成分表示は全く変わらないのに明らかにできあがるヨーグルトの質が違う。そんなこともあった。
 微生物と書いたが、日本で用いられる「麹菌」は、学名をアスペルギルス・オリゼーというカビの一種だ。日本にしかおらず、2006年に、日本醸造学会が麹菌を国菌に認定している。日本人は、アジアに広く分布しているアスペルギス・フラバス(こちらは有毒素を作る)から有毒素を作らないアスペルギルス・オリゼーを分離し、14世紀には既に純粋培養していたらしい。もう都会では見かけることはないが、こうした麹菌を扱う「麹屋」さんが、かつてはどの町にもあったのだ。もちろん今でも、都会を離れれば、それなりに見つかる。
 目下、日本を初め世界中が、新型コロナウィルスと戦っている。こちらは「微生物」ではなくウィルスだ。ウィルスはそもそも「生物」とは呼べるかどうか。「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一 講談社現代新書 2007年)によれば、ウィルスは自己複製を行なえるが、生物とは呼べない、という。しかも、ウィルスは、自己複製以外は行なえないようなのだ。材料に作用して、例えばタンパク質をアミノ酸に分解して、美味しい食材に変容させることはできそうもない。
 菌類などの微生物には、コレラや結核菌などの病原菌や毒素を作るO-157のような大腸菌もいるが、麹菌や乳酸菌のように、人間に役立つものもいる。後者は長い歴史の中で、人が工夫を重ね、僅かな変異など手がかりに、純粋培養し、利用してきたのだ。いつかウィルスにもそんな時がくるのだろうか。
 新型コロナウィルスの一日も早い終息を願ってやまない。[ T.S ]

 

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投稿日:2020年03月31日