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モンティ・ホール問題とベイズ推論

 次のモンティ・ホール問題は、直感と正解が食い違うことで有名な問題である。
『プレーヤーの前に閉まった3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車が、2つのドアの後ろには、はずれを意味するヤギがいる。プレーヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレーヤーが1つのドアを選択した後、司会のモンティが残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。
 ここでプレーヤーは、最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更してもよいと言われる。プレーヤーはドアを変更すべきだろうか?』
 直感的には『ドアを変更しても変更しなくても同じ』と思えるが、正解は『ドアを変更する』である。ドアを変更すると景品を当てる確率が2倍になる。
 
 モンティ・ホール問題を解くために、次式のベイズの定理を使用して、ドアを変更した場合と変更しない場合に景品を当てる確率を計算することができる。
 P(B|A)=P(A|B)×P(B)/P(A)   …(1)
ここで、P(A)は事象Aが起きる確率、P(B)は事象Bが起きる確率、P(B|A)はAが起こった条件でBが起こる確率、P(A|B)はBが起こった条件でAが起こる確率である。
 Aをデータと考えると、P(B|A)は、データAが得られた状態で事象Bが起こる確率であり、ベイズ理論では「事後確率」と呼ばれている。また、P(B)は、データAが得られる前に事象Bが起きると考えられる確率であり、「事前確率」と呼ばれている。ベイズの定理は、事象Bが起こる確率である事前確率P(B)を、データAが得られたときに事後確率P(B|A)に更新する式である。
 
 モンティ・ホール問題にこのベイズの定理を当てはめると、事象Aは、司会者が残りのドアのうち景品の無いドアを開けることに相当する。事象Bは、プレーヤーがドアを変更しないで景品を当てることB1、及び、ドアを変更して景品を当てることB2、に分けられる。ここで、3つのドアを、ドア1,ドア2,ドア3とする。また、プレーヤーが最初に開くドアを「ドア1」とし、司会者が開くドアを「ドア2」とする。
 このとき、次の2つの確率を計算すれば良い。
・確率P(B1|A):司会者がドア2を開けた後にプレーヤーがドアを変更しないで景品を当てる確率
・確率P(B2|A):司会者がドア2を開けた後にプレーヤーがドアを変更して景品を当てる確率
 上述した(1)式の右辺のうち、事前確率P(B)は、司会者がドアを開ける前にプレーヤーが1つのドアを選んで景品を当てる確率なので、1/3である。また、確率P(A)は、司会者が景品の無いドアのうちの一方を開ける確率なので、1/2である。
 確率P(B1|A),P(B2|A)はどうなるだろうか?
 
(a)プレーヤーがドアを変更しないで景品を当てる確率P(B1|A)
 プレーヤーが最初に選んだドア1に景品があれば、ドアを変更しないときに景品が当たることになる。この場合に、司会者は残りの2つのドアのうちのどちらを開けても良い。(1)式の右辺第1項P(A|B1)は、プレーヤーが選んだドア1に景品があった場合に司会者が残りのドア2とドア3のうちのドア2を開ける確率なので、1/2である。従って、P(B1|A)の計算結果は以下となる。
 P(B1|A)=(1/2)×(1/3)/(1/2)=1/3
 
(b)プレーヤーがドアを変更して景品を当てる確率P(B2|A)
 プレーヤーが最初に選んだドア1に景品が無ければ、ドアを変更したときに景品が当たることになる。この場合に、司会者は景品があるドア3を開けることはできず、景品の無いドア2を開けるしかない。(1)式の右辺第1項P(A|B2)は、プレーヤーが選んだドア1に景品がなかった場合に司会者が残りのドア2とドア3のうちのドア2を開ける確率なので、1/1である。従って、P(B2|A)の計算結果は以下となる。
 P(B2|A)=(1/1)×(1/3)/(1/2)=2/3
 
 これらの結果から、プレーヤーがドアを変更して景品を当てる確率P(B2|A)は、プレーヤーがドアを変更しないで景品を当てる確率確率P(B1|A)の2倍であり、最初に述べた正解の通りとなっている。
 
 ベイス推論は、ベイズの定理を利用した推論方法であり、ビッグデータの解析(クラスタリング)やニューラルネットワークの学習などの機械学習の基礎理論として利用されている。また、迷惑メールフィルタ(メールに或る語句が含まれている場合に、そのメールが迷惑メールである確率を計算する)にも利用されているらしい。ベイズ理論の基礎となるベイズの定理は、現在は高校の数学で教えられるようだが、私が学生のころは、高校はおろか大学でも全く聞いたことの無いものだった。
 特許に携わっているとこのような新たな定理や理論を学びながら実務を行う必要が生じてくる。ある意味ではいろいろと勉強ができて楽しい面もあるが、学ぶことが多すぎるといささか大変、というのも本音である。[ T.I ]

 

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投稿日:2017年12月26日