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まずい水
もうかなり昔の話になるが、中華そば屋でひどくまずい水を飲まされたことがある。
そのころ毎週一回は仕事を終えてテニスで汗を流した後に、近くの中華そば屋で夕食を食べて帰る、というのが定番だった。カウンターと４人掛けのテーブルが５～６席、それに小さな個室があるだけの小さな店だが、味は確かで値段も安い良心的な店だった。
その日もカウンターに座り、餃子（これが絶品）とチャーハンを注文し、コップに入れてくれた冷たい水を飲んだ…が、その水がまずい！！！…薬品のようなへんな臭いもする。
思わず店内を見回してみたが、店に半分ほど入っている他の客は、何も言わずに黙々と食べている。更に観察すると、カウンターの端に見慣れないウォーターサーバーが置いてあることに気がついた。
（ははあ、これだな）
そこで、カウンターの中で餃子を焼いている店長に声を掛けた。
「この水、へんな味がするよ！」
「えっ？……済みません、すぐに換えますから…」
店長は、そう言ってから自分でウォーターサーバーの水を飲んでみてびっくりした顔になり、店中の水を回収して、全員にウーロン茶の小瓶を配ってくれた。
「申し訳ありません。今日の昼間にこの機械をいれたんですが、調子がおかしくなってしまったようです。お陰様で助かりました。」
「いいえ、水もいつも美味しいのに、今日はいつもと違ってひどくまずかったからおかしいと思った。大変でしたね。」
「本当にありがとうございました。」
その日は、良いことをしたので気分も良く、料理もいつにも増して美味しかったように思えた。気になったのは、他の客はなんで何も言わなかったのだろう、という疑問だ。お店に初めて来た人であれば、水がまずいと思って二度と来ないことになるのかもしれない。私は毎週のようにこの店に通っており、しかも「安くて美味しい店」と高く評価し信頼していたので、まずいコップ水を出されたときにも、この店にはちゃんとやって欲しい、という気持ちが強かったように思う。
振り返ってみれば、我々の仕事でも、どんなに一生懸命やっていても思わぬミスや事故が発生してしまうことを１００％防ぐことはできない。ミスや事故を起こしたとき、その対策に誠心誠意で取り組むのは当然だ。だが、それにも増して、それまでに顧客から深い信頼感を獲得できていたか否か、或いは、顧客にとって仕事上の重要なパートナーと認識してもらっていたか否か、ということがとても重要なことだと思われる。顧客から仕事上の重要なパートナーとして深く信頼されていれば、仮に思わぬミスや事故を起こしても、お互いの信頼感を損なうことなく気持ち良く対策を実行することができ、その対策を通じて将来的にさらに強固な関係を構築することもできるだろう。このことをしっかりと心にとめて、日々の仕事に励んでゆきたいものである。[ Ｔ．Ｉ ]
投稿日:2016年08月30日
