2010年08月18日 所内研究レポート > 知財判決例−査定系
携帯電話端末事件(補正要件) 田邊淳也
【判決日】 平成22年6月22日
【事件番号】 平成21年(行ケ)第10303号
【発明の名称】 携帯電話端末
【キーワード】 補正要件
【事案の概要】
(1)本件は、拒絶査定不服審判の請求について、特許庁が本件補正を却下し、同請求は成り立たないとした審決の取り消しを求め、審決が取り消された事案である。
(2)本件補正後の発明
通信機能と,当該通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能とを有し,通信機能と通信機能以外の複数の機能に係る表示を行う一つの表示手段と,電源キー,数字キー等を備える入力手段とを有する携帯電話端末であって,
前記入力手段の電源キーを押下すると,前記表示手段を含む各構成部分に電力が供給され,携帯電話端末の動作が開始されて,前記通信機能と前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能とが使用可能状態となり,前記入力手段の電源キーとは異なるキー操作により通信機能を停止させる指示が入力されると,当該通信機能を停止させて通信接続情報の交信を行わないようになり,前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能はそのまま動作可能としたことを特徴とする携帯電話端末。
(3)審決では、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反しているため却下すべきものとされ、補正前の発明(本願発明)は、先願発明と同一であり、29条の2の規定により特許を受けることができないと判断された。
(4)これに対して、原告は、手続補正の適否について判断の誤り(取消事由1)等があるとしてその取り消しを求めた。
【裁判所の判断】
1.取消事由1(手続補正の適否について判断を誤った違法)について
(1)補正事項イ)について
ここでは,本願発明の「複数の機能」について,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を加えることの適否が問題となる。
・・・,当初明細書等に記載された本願発明の実施例としての携帯電話端末は,「マイク8」と「スピーカ9」とを備え,従来の携帯電話端末と同様に,「マイク8」は「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する」ものであり,「スピーカ9」は「音声電気信号を音響信号に変換する」ものであると認められる。
ところで,「広辞苑第6版」(甲6)によれば,「機能」とは,「物のはたらき。相互に関連し合って全体を構成している各要素や部分が有する固有な役割。また,その役割を果たすこと。作用。」を意味するものと認められるから,・・・,当初明細書等に「マイク」及び「スピーカ」に関して「機能」との明示的な記載がないとしても,「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する」ことが「マイク8」の機能であり,「音声電気信号を音響信号に変換する」ことが「スピーカ9」の機能であるということができ,また,「マイク8」及び「スピーカ9」を備えた携帯電話端末が,「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する機能」と「音声電気信号を音響信号に変換する機能」を有していると認定することができる。
さらに,「マイク」及び「スピーカ」は携帯電話端末として成立するための必須の構成部品であって,例えば,「スピーカ」は通話をするときのみならず,一般的な信号音の発生にも利用されることは技術常識であるから,これらの構成部品は,携帯電話端末の特定の機能やアプリケーションに従属するものではなく,独立して音声入力及び出力手段として機能し得るものであることは明らかである。
そして,「通信機能」とは「無線信号の送受信を行う」機能であって(当初明細書【請求項2】参照),「通話機能」と異なり,音響信号(音声)に直接関わるものではないから,「マイク」や「スピーカ」の機能は「通信機能」に含まれないと解される。
したがって,「マイク8」及び「スピーカ9」が提供する「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する機能」と「音声電気信号を音響信号に変換する機能」は,他の機能と両立する独立した機能であって,「通信機能以外の機能」と認められる。
(2)補正事項ロ)について
ここでは,「電源キーを押下する」場合に,本願発明の「複数の機能とが使用可能状態となり」を,「時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能とが使用可能状態となり」と補正することの適否が問題となる。
・・・,本願発明の実施例としての携帯電話端末において,電源キーの押下に基づいて,各構成部分に電力が供給され,・・・等が動作を開始し,また,携帯電話端末が通信機能以外の機能として時計機能及び電話帳機能を有しており(前記1の段落【0023】),電力供給と共にこれらの機能が使用可能となることは,一般の携帯電話端末の動作手順からも自明のことである。
ところで,・・・,その図1において,「マイク8」及び「スピーカ9」が制御部10と矢印線で結ばれていることから判断して,「マイク8」及び「スピーカ9」は制御部10に接続されて,制御部10との間で電気信号の授受をするものと解され,また,・・・解されるから,本願発明の実施例において,「マイク8」及び「スピーカ9」は制御部10とともに,使用可能な状態となると認められる。したがって,制御部10への電力供給とともに,「マイク8」及び「スピーカ9」も動作可能な状態となり,・・・,音声電気信号が制御部10で処理可能となるといえる。
(3)補正事項ハ)について
ここでは,「電源キーとは異なるキー操作により通信機能を停止させる指示が入力される」場合に,本願発明の「複数の機能は動作可能とした」を,「時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能はそのまま動作可能とした」と補正することの適否が問題となる。
前記1の段落【0006】ないし【0011】及び【0015】によれば,・・・を目的とするものである。
そして,本願発明は,上記目的を達成するため,使用者の要求により,通信機能のみを停止できるようにし,無線信号の発着信が禁止されている場所においては,通信とは無関係の機能を使用できるようにして利便性を向上させ,また,エリア外における消費電力を低減することができるようにするものであると認められる。
そして,・・・,本願発明の実施の形態で詳述されている携帯電話端末は,入力部6の通信停止キー6dを押下すると,・・・,無線部2及びベースバンド処理部3への電力供給を停止するというものであることが認められる。
すなわち,本願発明の携帯電話端末は,通信機能を停止するように指示された場合には,・・・,通信機能をつかさどる構成部分(無線部2及びベースバンド部3)への電力供給を停止させるものであり,このとき,携帯電話端末の装置全体の電源を切らない状態にするべく,携帯電話端末の他の構成部分である・・・には,バッテリ11から直接又は電源制御部12と電源線(22ないし26)とを介して電力が供給されるものである。
そして,上記の通信機能が停止中の動作及び作用・効果に関して,「通信機能のみを停止させ,電話番号帳,電子手帳,時計等の通信とは無関係の機能を使用できるように」する(前記1の段落【0015】),「病院等の無線通信禁止区域において,通信機能のみを停止させて電子手帳機能や電話帳機能等はそのまま用いることができるため,利便性を向上させることができ,また,通信機能を停止させて消費電力を低減することができる。」(前記1の段落【0040】)と記載されているから,上記「等」の記載に基づくと,「時計機能」及び「電話帳機能」は,通信とは無関係の機能の例示であって,この両者の機能のみが使用可能となることを意味するものではなく,むしろ,「通信機能のみ」を停止させるとの記載によれば,無線信号の発着信を行わないすべての機能は使用可能になっていると解するのが自然である。
そうすると,無線部を含めて携帯電話端末のすべての構成部分に電力が供給された通常の動作状態においては,携帯電話端末の有する機能のすべてが使用可能状態にあり,その状態から,電源線20及び21の電力供給のみを停止し,無線部2及びベースバンド処理部3の動作のみを停止させるのであるから,継続して電力供給がされている制御部10は,引き続き,使用可能な状態が維持されるものと認められる。このように,通信機能を停止させた際にも,・・・,制御部10は,・・・と協働して適宜必要な動作を実行するものと認められるところ,前記1の図1を参照すると,「マイク8」及び「スピーカ9」は制御部10に接続されているから,前記(3) で検討したとおり,接続先の本体部(制御部10)に電源が供給されていれば,「マイク8」及び「スピーカ9」も使用可能となり,協働して音声入力及び出力動作を実行し得るものと解される。
【所感】
請求項に記載されている「機能」とは、携帯電話が全体として有する機能であり、携帯電話がユーザに対して提供するサービスを意図していると思われる。携帯電話を構成する個々の部材の機能が明細書に記載されているからといって、これを携帯電話自体の機能として認めると、個々の部材の機能をユーザの要求に応じて提供するという新たな技術的事項が含まれてしまうと思われる。この補正により、本願発明の技術的範囲にボイスレコーダ機能や音楽再生機能が含まれてしまうとすれば、裁判官の判断は必ずしも適切ではないと思われる。