2010年08月04日 所内研究レポート > 知財判決例−侵害系
液体収納カートリッジ事件 堀研一
【事件番号】平成22年(ワ)第3529号 特許権侵害差止請求事件(東京地裁)
【判決日】平成22年6月24日
【発明の名称】液体収納容器、該容器を備える液体供給システム、前記容器の製造方法、前記容器用回路基板および液体収納カートリッジ
【キーワード】間接侵害、課題の解決にとって不可欠(特101条2号)、液体供給システム、液体収納容器、プリンタ、カートリッジ
【事案の概要】
原告が、被告に対し、インクタンクの輸入、販売、販売のための展示の差止を請求した事件。原告の請求が認められた。
【原告の特許】
(1)特許番号:特許第3793216号(登録日:平成18年4月14日)
(2)出願番号:特願2004-330952(出願日:平成16年11月15日)
(3)特許請求の範囲:(分説は判決文の別紙であり、入手できず)
【請求項5】(訂正前。改行、字下げは堀による)
複数の液体収納容器が互いに異なる位置に搭載可能であって、
該液体収納容器に備えられる接点と電気的に結合可能な装置側接点と、
該液体収納容器からの光を受光することによって前記液体収納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出手段と、
搭載される液体収納容器それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し個体情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置と、
前記記録装置のキャリッジに対して着脱可能な液体収納容器と、を備える液体供給システムにおいて、
前記液体収納容器は、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体収納容器の個体情報を保持する情報保持部と、
前記位置検出手段に投光するための発光部と、
前記接点から入力される前記個体情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する個体情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と、を有することを特徴とする液体供給システム。
(4)被告製品の構成(判決文、第2、1、(5)より)
ア.被告製品は,インクタンク本体に,インクを充填したインクタンク。(以下略)
イ.被告製品は,原告製プリンタに装着することができる。(以下略)
【争点】
被告製品2を輸入,販売する行為は,特許法101条2号により,本件特許権2を侵害するものとみなされるか(間接侵害の成否)(争点2)。
堀注:「特許権1」は、「液体収納容器」(請求項1)の特許権。
「特許権2」は「液体供給システム」(請求項5。訂正後の請求項3)の特許権。
【裁判所(東京地裁)の判断】(判決文より)
以上のとおり,本件では,本件特許権1に基づく被告製品2の差止請求が認
められるものであるが,本件の事案にかんがみ,本件特許権2に基づく被告製
品2の輸入,販売等の差止請求の可否についても判断を加える。
1.間接侵害の成否について(以下、判決文より抜粋)
ア 原告製プリンタ
(前略)したがって,原告製プリンタは,構成要件2A1ないし2A4及び同2A1'ないし2A4'を充足する。
イ 被告製品2
(前略)したがって,被告製品2は,構成要件2B,2D1ないし2D4,2B',2D1'ないし2D4',2E'及び2F'を充足し,被告製品2を
装着した原告製プリンタは,構成要件2C及び2Eの「液体供給システム」
ないし同2C'及び2G'の「液体インク供給システム」に該当し,同構
成要件を充足する。
ウ 「発明による課題の解決にとって不可欠なもの」(特許法101条2号)
被告製品2は,これを原告製プリンタに装着すると,本件発明2及び本
件訂正発明2の「液体供給システム」ないし「液体インク供給システム」
を生成するものであり,インクタンクの誤った位置への装着を解消すると
いう,上記各発明の課題を解決するために不可欠なものである。
これに対し,被告は,原告製プリンタは,誤って2個同色を装着すると
いう同プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯一の場合に,本
件光照合処理(*1)による誤装着の検出を行わないものであるから,本件発明2
及び本件訂正発明2の特徴的技術手段である,上記誤装着検出手段(*2)を直接
形成するものには当たらず(*3),特許法101条2号所定の,本件発明2及び
本件訂正発明2の「課題の解決に不可欠なもの」に該当しない(*3)と主張する。
しかしながら,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる
のは,誤って2個同色を装着する場合に限られない(*4)ことは前記(1)イ(カ)
で認定したとおりであるから,被告の主張はその前提を欠くものである。
被告製品2は,発光部や制御部,情報保持部といった構成を備えること
により,原告製プリンタと協働して,システムとしての機能を達成してい
るといえるから,「発明による課題の解決にとって不可欠なもの」である
と認められる。
(*1)堀注:「光照合処理」とは、情報保持部、発光部等を使用した、「正常に装着されたインクタンクそれぞれが正しい位置に装着されているか否かを判断する処理」(特許公報の段落0108、図25のS105)。そのような光照合処理に先立って「インクタンク着脱処理」が行われる(同、段落0099~0102, 0105、図25のS101、図26)。「インクタンク着脱処理」においては、正しい顔ぶれのインクタンク(1色1タンク)が装着されたか否かが確認される。具体的には、空になったインクタンクに代えて、別の色(すでにホルダにタンクが装着されている色)のインクタンクが装着された場合には、各インクタンクの色情報が順に読み出される際に、同色の2個目のインクタンクが検出されることにより(同、段落0100末尾、0101先頭)、「インクタンク着脱処理」が「異常終了」し、そのまま「光照合処理」に進むことはない(同、段落0101, 0102, 0105, 0106、図25のS102がNO, S105、図26のS204, S207, S208)。
なぜ2段階に分けて処理が行われるのかは不明。光照合処理を行わない「67機種の原告製造のプリンタ」(下記エ参照)が存在することから、光照合処理が後から開発され新機種にのみ実装される処理であり、新しい機種では、互換性確保等のために2段階の処理が行われるのかもしれない。
(*2)堀注:本件発明の「特徴的技術手段」に対して、被告が名付けた名称。被告の主張の当該箇所以外に言及なし。
(*3)堀注:被告の主張からの抜粋に際して、「被告製品は」という主語が脱落。
(*4)堀注:原告製プリンタでは、インクが「少なくなった状態」、「なくなった可能性がある状態」及び「ない状態」の3段階のインク切れの警告が行われることから、インク減の程度が異なる複数のインクタンクを同時に交換することもある、その際に、正しい顔ぶれの(1色1タンクの)複数のインクタンクを間違った位置に装着することもある、ということ(判決p.172参照)。
エ 「日本国内において広く一般に流通しているもの」(特許法101条2
号)について
被告は,被告製品2は,市場において広く取引され,たやすく入手する
ことができる物であり,本件発明2及び本件訂正発明2の特徴的機能を有
しない67機種の原告製造のプリンタにおいても使用することができる一
方,同機能を有している原告製プリンタの数は23機種にすぎないから,
仮に,同製品が本件発明2及び本件訂正発明2の実施に適しているとして
も,それ以外の用途も有する汎用品であるといえ,特許法101条2号所
定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当すると主張
する。
しかしながら,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般
に流通しているもの」とは,より広い用途を有するねじや釘のような普及
品を想定して制定されたものである。原告製プリンタにしか使用すること
ができない被告製品2は,発光と受光という本件発明の特徴的機能を有し
ない機種計67機種の他の原告製プリンタにも使用することができるとし
ても,汎用品ということは到底できず,「日本国内において広く一般に流
通しているもの」とは認められない。上記「日本国内において広く一般に
流通しているもの」とは,汎用の部品や材料が,特許発明の侵害する製品
の製造に用いられたとしても,間接侵害とならないように設けられた規定
であり,被告製インクタンクは,原告製プリンタ専用のインクタンクであ
るから,到底,汎用の部品とはいえない。
したがって,被告製品2は,「日本国内において広く一般に流通してい
るもの」とは認められない。
オ 消尽について
被告は,特許製品としての原告製プリンタ及び同梱インクタンクが,特
許権者である原告により,我が国においていずれもユーザーに譲渡された
時点で,本件特許権2は消尽し,原告は,当該特許製品であるプリンタ及
びインクタンクについて特許権を行使することはできないと主張する。
しかしながら,インク供給システムの発明において,インクタンクは,
プリンタ装置本体と同等に重要な構成要素(主要な部品)であるといえ,
その主要な部品を新たなものに交換する行為は,修理等の域を超えて,実
施対象を新たに生産するもの(*5)と考えられるから,被告製インクタンクを原
告製プリンタに装着する行為は,インク供給システムの新たな生産(*5)とみな
すことができ,本件特許権2は消尽していないと解するのが相当である。
カ 小括
被告は,被告製品2を,「CANON対応製品」,「キヤノン互換インク
カートリッジ」として販売しており,被告製品2が原告製プリンタに装着
されると上記各発明の実施に使用されることを理解した上で,被告製品2
を輸入,販売している。
したがって,被告製品2を輸入,販売する行為は,特許法101条2号
により本件特許権2を侵害するものとみなされる。~(略)
【感想】
(i)被告製品が「発明による課題の解決にとって不可欠なもの」か否かが一番の争点である。
被告の主張は、要するに「その構成(発光部、制御部、情報保持部)が使用される可能性が非常に低いから、『課題の解決にとって不可欠なもの』ではない」というもの。しかし、被告も、被告製品の発光部等が使用される可能性がまったくないと思っているわけではないであろう(そう思っているなら、発光部等を被告製品に設ける必要がない)。そして、クレームの構成要素や被告製品の構成自体に基づくものではないこの主張は、苦しい。
(ii)「課題の解決に不可欠なもの」、「汎用品」、「消尽」それぞれについての判決の判断は妥当であると考える。
また、結論として、一定の条件下で、「装置本体と消耗品(交換品)の両方に言及したシステムクレーム」に基づいて、消耗品に対しても、101条(間接侵害)で権利行使ができる、とする判断も、妥当であると考える。装置本体と消耗品(交換品)とが協働して機能を達成する技術に関して、権利行使可能な特許を取得するためには、装置本体にできる限り言及せずに消耗品(交換品)についての請求項を作成することが求められるというのでは、発明の保護において、テクニカルな部分(代理人を含む出願人側のクレーム作成能力)にウェイトがかかりすぎる。
本地裁判決に従えば、装置本体と消耗品(交換品)とが協働して機能を達成する技術については、装置本体と消耗品との両方に言及したシステムクレームに基づいて、消耗品(交換品)に対しても、間接侵害に該当するとして権利行使ができる場合があることになる。
なお、被告製品は、「発光部」、「制御部」等を備え、自ら発光することで、発明の機能の一端を担っている。システムクレームに基づいて消耗品に対して特許法101条2号で権利行使できるケースは、ある程度、積極的に消耗品自身がシステム発明の機能に関与しているケースであると考えられる。
以 上