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【事件番号】平成18年(ワ)第28244号 特許権損害賠償等請求事件(東京地裁)

【判決日】平成22年3月25日

【発明の名称】遊技機

【キーワード】構成要件充足性

【事案の概要】

 遊技機に関する特許権を有する原告が、被告においてパチスロ機を製造販売する行為は原告の特許権を侵害すると主張して、被告に対し損害賠償を求めたが、原告の請求がいずれも棄却された事件。

 

【争点】

争点1:被告物件が本件発明1の技術的範囲に属するか(裁判所の判断:属しない)

 →今回は、争点1について紹介

争点2:被告物件が本件発明2の技術的範囲に属するか(裁判所の判断:属しない)

争点3:被告物件が本件発明3の技術的範囲に属するか(裁判所の判断:属しない)

争点4:本件特許1は無効とされるべきものか(裁判所判断せず)

争点5:本件特許2は無効とされるべきものか(裁判所判断せず)

争点6:本件特許3は無効とされるべきものか(裁判所判断せず)

争点7:損害の額(裁判所判断せず)

 

【原告の特許】

(1)特許番号:特許第3069092号

(2)出願日:平成10年11月25日

(3)登録日:平成12年5月19日

(4)特許請求の範囲(請求項1の分説)

 1A 乱数抽選によって遊技の入賞態様を決定する入賞態様決定手段と,

 1B 種々の図柄を複数列に可変表示し,前記入賞態様決定手段で決定された入賞態様に応じた図柄組み合わせを前記各列に停止表示する可変表示装置と,

 1C この可変表示装置の可変表示を開始させる可変表示開始手段と,

 1D 前記可変表示を各列毎に停止させる可変表示停止手段とを備えて構成される遊技機において,

 1E 前記入賞態様決定手段は,複数の入賞態様からなる確率テーブルを有し,抽出された乱数が前記確率テーブルのいずれかの入賞態様に属したとき,その属した入賞態様の当選フラグを成立させ,

 1F 前記可変表示停止手段は,遊技者が操作可能な停止ボタンからなり,この停止ボタンの操作タイミングに応じて前記可変表示を各列毎に停止させるが,前記当選フラグが成立していても,前記停止ボタンが前記当選フラグに対応した図柄を有効化入賞ライン上に停止できる所定タイミングで操作されないと,前記有効化入賞ライン上に入賞が発生する図柄組み合わせを停止表示させない制御を行い,

 1G 前記可変表示開始手段によって前記可変表示が開始され,前記可変表示停止手段によって前記可変表示が停止される1回の遊技の中で,前記入賞態様決定手段で決定された入賞態様に対応した報知情報を所定確率で遊技者に報知する報知手段を備え,

 1H 前記報知情報が,配当のある複数の異なる入賞態様に共通して演出される報知態様による報知と,その後の,前記報知態様とは異なる報知態様による報知とからなることを特徴とする

 1I 遊技機。

 

*1G,1Hが争点になり、1Hのみが判断対象となった。

 

【裁判所の判断】

 構成要件1Hは,(中略)「配当のある複数の異なる入賞態様に共通して演出される報知態様による報知」(共通報知)と「その後の,前記報知態様とは異なる報知態様による報知」(その後の報知)とを備えることが必要とされている。ここにいう報知の意義について,原告は,各報知が単独で入賞態様を絞り込む情報を有している必要はなく,報知全体として入賞態様の絞り込みが行われていれば構成要件1Hを充足すると主張し,これに対して,被告は,入賞態様の予測の絞り込みに寄与し得る情報を全く含まない演出は「報知」に当たらず,配当のない当選役(ハズレ)を含むすべての入賞態様に共通する演出は共通報知に当たらないと主張し争っている。

 

 そして,ハズレを含むすべての入賞態様に共通する演出については,その後の報知と合わせた報知全体として入賞態様の絞り込みが行われたとしても,それはその後の報知が入賞態様に対応していることによる結果にすぎず,ハズレを含むすべての入賞態様に共通する演出とその後の報知との組合せが入賞態様に対応しているとみることは困難である。そうすると,共通報知というためには,それ単独であっても,入賞態様を絞り込むことのできる情報を有していなければならず,ハズレを含むすべての入賞態様に共通する演出のような入賞態様を絞り込む情報を有しない演出については,共通報知に当たらないものと解するのが自然である。(中略:明細書・図面引用)このような本件明細書1及び図面の記載に鑑みても,共通報知というためには,それ単独であっても,入賞態様を絞り込むことのできる情報を有していなければならず,配当のない当選役(ハズレ)を含むすべての入賞態様に共通する演出のような入賞態様を絞り込む情報を有しない演出については,共通報知に当たらないものと解するのが相当である。

 

 上記の共通報知の解釈を前提に,被告物件が共通報知を備えているといえるかについて,以下,演出態様ごとに検討する。

ア木箱演出

() 前記争いのない事実によれば,木箱演出においては,スタートレバー操作により,撃鉄音(カシャ),打鐘音(ジャン)及び落下音(ヒュー・ドン)が順次鳴り,落下音と同時に液晶画面上において木箱が落下する動画映像が表示される(以下,このようなスタートレバー操作によって発生する音をまとめて「開始音」という。)。その後,第1ないし第3ストップボタンのいずれかの操作に伴って,銃撃による破壊音(バキューン)が鳴り,それと同時に液晶画面上のキャラクタが木箱を破壊

し,木箱からチェリー,バナナ,スイカ,JAC(リプレイ)の各シンボルが表示される。

() 上記開始音(撃鉄音+打鐘音+落下音)が報知する入賞態様は,配当のない当選役(ハズレ),2枚チェリー,4枚チェリー,バナナ,スイカ及びリプレイであることについては当事者間に争いがない。そうすると,原告が共通報知に該当すると主張する上記開始音は,配当のない当選役も含めたすべての入賞態様に共通して出音されるものであるから,いずれの入賞態様に決定されているかについて絞り込む情報を有しておらず,共通報知に該当すると認めることはできない。

() 原告は,すべての入賞態様に共通する演出であっても,それにより「すべての入賞態様の可能性が排除されていないという情報」を有するものであるから,上記開始音も共通報知に該当する旨主張する。そして,その後の第1ないし第3ストップボタンのいずれかの操作に伴って木箱が破壊されるか又は破壊されないかによって,配当のない当選役と2枚チェリーについて,これらが内部当選していないこと又は内部当選の可能性があることが分かるから,上記開始音及びその後の液晶画面の表示の全体として入賞態様の絞り込みがされており,構成要件1Hを充足するなどと主張する。しかしながら,本件発明1は,共通報知とそれと態様が異なるその後の報知が順次されることにより,それらによって入賞態様が順次判明するものであるとされているものであるから,共通報知もそれ自体により入賞態様の絞り込みができるものでなければならないと解すべきことは前記説示のとおりである。すべての入賞態様の可能性があると認識することは入賞態様の予測とはいえないから,原告の上記主張は,採用することができない

() 以上のとおり,木箱演出においては,共通報知を具備すると認めることはできない。

 

(中略:他の演出についての検討)

 

カ点滅演出

() 前記争いのない事実によれば,点滅演出においては,スタートレバー操作に伴い開始音(撃鉄音(カシャ),飛行音(ゴー))が鳴る。その後,第3ストップボタン操作に伴い,リールバックランプが放射状に点滅する場合と,そのような演出がない場合(厳密には点滅演出ではないが,開始音が同一であるのでここで議論する。)がある。

() 上記開始音(撃鉄音+飛行音)が鳴ると,スイカが当選することはないことは,当事者間に争いがない。そうすると,上記開始音は,これが鳴ることにより遊技者はスイカ以外の入賞態様が内部当選していることを知ることができるから,いずれの入賞態様に決定されているかについて絞り込む情報を有しているものということができ,共通報知を備えているものと認めることができる

 

(4) 次に,点滅演出における,第3ストップボタン操作に伴う点滅の有無が「その後の,前記報知態様とは異なる報知態様による報知」(その後の報知)に該当するといえるかについて検討する。

ア構成要件1Gにおいて「可変表示が停止される1回の遊技の中で・・・報知情報を・・・遊技者に報知する」ものとされているのであるから,同構成要件の「報知情報」の内容を限定している構成要件1Hに規定するその後の報知は,1回の遊技の中で行われ,遊技終了後にされる演出はこれに該当しないものと解するのが相当である。このことは,本件発明1は,「遊技者が操作を進めて行くに連れて内部抽選によってどのような入賞態様が決定されたかが判明して行き,この判明した入賞態様に起因して遊技者は熱くなる」という効果を生じるものであることからも明らかである。そして,原告がその後の報知であると主張する第3ストップボタン操作に伴う点滅の有無は,すべてのストップボタン操作が終了し,1回の遊技が終了した以後の演出である。その時点においては既に,停止したリールの表示により入賞態様が明らかとなっているのであって,点滅の有無により,入賞態様を遊技者に知らせる意味を有するものということはできない。

(中略)

ウしたがって,被告物件の点滅演出において,その後の報知を備えていると認めることはできない。

(5) 以上のとおり,被告物件の各演出は,いずれも,共通報知を備えないか,又は,共通報知を備えていても,その後の報知を備えないものであるから,被告物件は,構成要件1Hを充足するものと認めることができず,本件発明1の技術的範囲に属するものということはできない。

 

【感想】

 請求項の文言のみから判断すると、被告物件は構成要件を充足しているとも考えられるが、裁判所は、明細書の記載(課題や効果)を参酌し、「共通報知は、入賞態様を絞り込むことのできる情報を有していなければならない」と判断し、クレームを限定的に解釈した。明細書全体の記載を鑑みれば、妥当な判断であると考える。

 原告は、「すべての入賞態様に共通する演出であっても,それにより「すべての入賞態様の可能性が排除されていないという情報」を有するものであるから,上記開始音も共通報知に該当する」と主張するが、この主張によれば入賞態様の異同に関係なく発せられるあらゆる音等が「共通報知」に該当することとなるため、説得力のあるものとは言えないと考える。

 

以 上

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