車両のドアフレームに細長いストリップを貼付する方法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2019.04.25
事件番号 H30(行ケ)10082
担当部 知財高裁第4部
発明の名称 車両のドアフレームに細長いストリップを貼付する方法
キーワード 進歩性
事案の内容 本件は、拒絶審決の取消しを求める審決取消訴訟において、拒絶審決が維持された事案である。原告の自社技術が主引用発明および副引用発明とされて、進歩性の有無について争われたことがポイント。

事案の内容

【手続の経緯】
平成22年 9月 3日 欧州特許庁に基礎出願
平成23年 8月26日 国際特許出願(特願2013-527137号)
平成26年 8月22日 特許請求の範囲を補正
平成27年 7月16日 拒絶理由通知
平成28年 5月31日 拒絶査定
平成28年10月 6日 拒絶査定不服審判を請求(不服2016-15088号)
平成28年10月 6日 特許請求の範囲を補正
平成29年 4月 5日 拒絶理由通知
平成29年10月 2日 特許請求の範囲および明細書を補正(本件補正)
平成30年 1月30日 拒絶審決
平成30年 2月13日 拒絶審決の謄本送達
平成30年 6月12日 審決取消訴訟提起
 
【特許請求の範囲】
【請求項1】(以下、本願発明と呼ぶ)
 細長いストリップを車両のボディのドアフレームに取り付ける方法であって,
前記方法は,
(i)駆動手段,
(ii)ピンローラ,
(iii)前記駆動手段と前記ピンローラとの間に位置付けられ,かつ1つ以上のセンサユニットを備える応力制御ユニット,及び
(iv)前記駆動手段を制御するための制御ユニット,
を備える装置を用いて細長いストリップの貼付を含み,
前記細長いストリップの貼付は,
 前記駆動手段によって前記細長いストリップを前進させる工程と,
 前記ピンローラを用いて前記ドアフレームに前記細長いストリップを位置決めし,押圧し,及び/又は回転させる工程と,
 前記応力制御ユニット及び前記駆動手段を制御するための前記制御ユニットを用いて前記細長いストリップの応力を制御する工程と,
 を含み,それにより,前記応力制御ユニットの前記1つ以上のセンサユニットは,前記細長いストリップの応力を測定し,前記制御ユニットは,前記応力制御ユニットの前記1つ以上のセンサによる前記細長いストリップの応力の測定に基づいて,前記細長いストリップの応力を所望の応力範囲内に維持するために,前記駆動手段を制御し,
 前記細長いストリップが,ゴムガスケットと,第1及び第2の主面を有するフォーム層及び該フォーム層の前記第1の主面に関連付けられた感圧性接着剤層を含む接着テープと,を含み,
 前記感圧性接着剤が架橋ゴムを含み,
 前記フォーム層が,アルキル基中に平均で3~14個の炭素原子を有する1つ以上のアルキルアクリレートのアクリルポリマーを含み,
 前記フォーム層の密度が少なくとも540kg/m³であり,
 前記ゴムガスケットが,前記フォーム層の前記第2の主面に関連付けられた追加の接着剤層を介して前記接着テープに取り付けられている,方法。
 
【拒絶審決の概要】
<審決の理由>
 本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2010-504263号公報(以下「引用文献1」)に記載された発明(以下「引用発明」),特表2010-512428号公報(以下「引用文献2」)に記載された技術的事項(ないし周知技術)及び技術常識に基づいて,当業者が,容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
 
【裁判所の判断】
1 相違点の容易想到性の判断の誤りの有無について
(4) 相違点の容易想到性について
ア 前記(2)イのとおり,引用文献1には,基部に貼付前のストリップの引張応力及び圧縮応力が基部に貼付されたストリップにしわ又は緩みをもたらし,ストリップの品質を損なうため,基部に貼付されるストリップの応力レベルを貼付前に制御する引用発明の構成を採用したことの開示がある。
 引用文献1には,「ストリップは,本体または開口部を画成する構造体(例えば,自動車,航空機,または船舶の本体などの車体の,車両のドアまたはドア枠)の基部または周辺端部へ貼付けるための,接着テープが貼付されたストリップ,例えば接着テープが貼付されたウェザーストリップシールなどである」こと(【0001】),「一般的に,弾性異形材やウェザーストリップなどの各ストリップは,各種の特定用途またはシールされる特定の基部専用に設計され,製造され」,「ゴムまたは他の弾性異形材」は,「一般に閉じたループ形式で,またはばらばらの長さで,または連続ロールで設けられ,少なくとも1つの熱成形またはモールド成形された角部を有することが多い」こと(【0003】)の記載がある。また,引用文献1には,「引張応力および圧縮応力の双方とも,特に幾何学的形状の基部に貼付される細長いストリップ,例えば,車体のドア開口部に沿って設けられたウェザーストリップの隅部においては,細長いストリップの基部からの緩みをもたらし得る。」(【0013】)との記載があり,上記記載には,「車体のドア開口部に沿って設けられたウェザーストリップの隅部」において,細長いストリップの基部からの緩みをもたらし得るとの課題が示されている。そして,自動車の車体のドア開口部の隅部が湾曲した領域を有すること,湾曲した領域に貼付したテープは,平坦面に貼付したテープに比べて剥離しやすいことは技術常識である。
 しかるところ,引用文献1には,引用発明の「細長いストリップ」である「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」における「感圧接着剤層」に関し,「自動車のドアまたはトランクの開口部のシールに使用されるゴムまたは他の弾性異形材を付着するために特に好適なテープ」の例として,「一方の側に弾性異形材に接合するための加熱活性化接着剤,および他方の側に,テープされた弾性異形材をドア開口部に付着するための粘着性感圧接着剤を備える二機能性の接着テープ,またはそれぞれの側に感圧接着剤を含むテープが挙げられる。」(【0005】)との記載があるが,「感圧接着剤層」の具体的な構成についての記載はない。
イ 他方で,引用文献2には,①接着剤及びテープは,2個の基材を共に貼り合わせ,接着複合体を形成するのに用いられること(【0002】),②引用文献2記載の感圧性接着剤は,低表面エネルギー基材に接着するのに有用である場合があること(【0026】),③自動車塗料を含む塗面は,低表面エネルギー表面であること(【0068】,【0069】),④「分離及び連続引き剥がし接着力(Breakaway and Continuous Peel Adhesion)(BACP)」に従って,「硬化した接着テープの,低表面エネルギーの自動車塗料への接着」を試験し,引張試験は,「分離負荷値,平均連続引き剥がし値及び総エネルギー」を算出するようプログラムされたソフトウェアを備えるMTSモデル1122引張試験機を用いて実施したこと(【0094】)の記載がある。上記記載は,引用文献2記載の感圧性接着剤は,自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用であることを示唆するものといえる。
 しかるところ,ウェザーストリップが貼付される車両本体のドアフレームの開口部が自動車塗料で塗装された塗装面であることは,技術常識である(例えば,乙2(特開平7-97562号公報)の【0035】,乙3(特開2009-286882号公報)の【0097】及び【0101】)。
 そうすると,引用文献1及び2に接した当業者においては,貼付されるストリップの応力レベルを貼付前に制御する引用発明を使用して,車体のドア開口部に沿ってウェザーストリップを貼付する際に,湾曲した領域を有する隅部においてウェザーストリップが剥離することを防止するため,引用発明の「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」の「感圧接着剤層」として,自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用である引用文献2技術(「感圧性の第1スキン接着剤からなる第1接着層」と「感圧性の第2スキン接着剤からなる第2接着層」を有する「テープ」)を採用する動機付けがあるものと認められる。
 また,引用文献2技術の構成に照らすと,引用文献2技術の「第1スキン接着剤」は実質的に「架橋ゴムを含む」ものと認められる。
 以上によれば,引用文献1及び2に接した当業者においては,引用発明において,引用文献2技術を適用して,相違点に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
(5) 原告の主張について
ア 原告は,ウェザーストリップを含む細長いストリップを車両本体のドアフレームに貼付する場合に,貼付前の応力を調整するだけでは十分に剥離を防止できない場合があり,研究を重ねた結果,車両本体のドアフレームに特有な課題(本願明細書の【0005】)があることを見出して,本願発明に至ったこと,引用文献1及び2には,本願発明が解決しようとする上記課題について記載も示唆もないことからすると,本願発明は,引用文献
1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張する。
 しかしながら,原告が指摘する車両本体のドアフレームに特有な課題とは,「ドアフレームの湾曲が強い領域,例えば,ドアフレームの隅部では,接着テープに導入されるひずみに起因して,テープが取り付けられる表面と平行な面内で剥離が起こること」(本願明細書の【0005】)をいうものであるところ,前記(4)ア認定のとおり,引用文献1においても,「車体のドア開口部に沿って設けられたウェザーストリップの隅部」において,細長いストリップの基部からの緩みをもたらし得るとの課題があることが示されていること,車体のドア開口部の隅部のような湾曲した領域に貼付したテープは,平坦面に貼付したテープに比べて剥離しやすいことは技術常識であることからすると,当業者は,ドアフレームの隅部の湾曲が強い領域においては接着テープが剥離しやすいことを容易に認識することができたものと認められる。
 したがって,原告が指摘する車両本体のドアフレームに特有な課題は,引用文献1から自明な課題であるといえるから,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,①引用文献1は,課題解決手段として,貼付前のウェザーストリップの応力調整を行うことを提示しているに過ぎず,ウェザーストリップの材料の選択によっても,課題を解決できることについての示唆はないし,また,本願発明が解決しようとする車両本体のドアフレームの特有な課題についての記載も示唆もない,②引用文献2には,引用文献2記載の接着剤及びテープが,ウェザーストリップを貼付するために適したものであることについての記載はないし,また,引用文献2記載の自動車塗料に対して所定の分離負荷値,引き剥がし値等が得られたことを示すテープが,直ちに湾曲して貼り付けられるウェザーストリップに適しているとは理解できるはずはないなどとして,引用発明に引用文献2技術を適用する動機付けはない旨主張する。
 しかしながら,上記①の点については,引用文献1には,引用発明の「細長いストリップ」である「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」における「感圧接着剤層」の具体的な構成に関する記載はないが,前記ア認定のとおり,原告が指摘する車両本体のドアフレームに特有な課題は,引用文献1から自明な課題である。
 次に,上記②の点については,前記(4)イ認定のとおり,引用文献2には,引用文献2記載の感圧性接着剤は,自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用であることの示唆があり,また,ウェザーストリップが貼付される車両本体のドアフレームの開口部が自動車塗料で塗装された塗装面であることは,技術常識である。
 そして,引用発明に引用文献2技術を適用する動機付けがあることは,前記(4)イ認定のとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(6) 小括
 以上によれば,本願発明は,引用文献1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
 
2 結論
 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
 
【所感】
 引用文献1および引用文献2は、原告の自社技術について記載された公開公報である。原告は、本願発明の解決しようとする課題が新規な課題であること、および、引用文献1に引用文献2を適用する動機付けがないことを主張して進歩性の判断に誤りがあることを主張したが認められなかった。仮に、本件の明細書等に、ウェザーストリップの貼付に関するパラメータ(例えば、貼付前のウェザーストリップの応力調整を行う際の応力レベル等)が記載されていれば、特許を得られた可能性はある。