棒状ライト事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2018.08.22
事件番号 H29(行ケ)10224
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 棒状ライト
キーワード 進歩性
事案の内容 本件は、拒絶査定不服審判(不服2016-010124号)の請求不成立審決に対する取消訴訟であり、審決が維持された事案である。主引例に対して副引例を適用する動機付けについて、技術分野の関連性や課題の共通性等の観点から端的に説明している点がポイント。

事案の内容

【争点】
進歩性の判断の当否
【本願発明と引用発明】
〇本願発明(特願2015-213999号)
【請求項1】
 筒状の胴体部と,
 前記胴体部の内部に位置し,発光する発光部と,
 前記胴体部の前端に設けられるヘッド部と,
 前記胴体部と連結し,手でつかむための保持部と,
 前記保持部の内部に設けられ,前記発光部に動力を供給する電源部と,
 前記保持部の内部に設けられ,前記発光部の発光条件を制御する制御部と,
 前記保持部の外部に設けられ,前記制御部に対して,前記発光条件の切り替え指示を与えるスイッチ部とを有し,
 前記胴体部は,前記保持部に差し込まれることで前記保持部に連結し,
 前記発光部は,前記胴体部の,前記保持部に差し込まれた部分に位置し,
 前記発光部は,白色光を発する発光ダイオードを備えるものであって,発光ダイオードである発光体を用いて,各発光体が複数の発光色に発光することを可能とし,(相違点1)
 前記制御部は,前記スイッチ部が押される回数に応じて前記各発光体の照度を切り替え可能である(相違点2)棒状ライト。
 
〇引用発明(出願人の会社製品)
本件原出願日前に日本国内において販売された原告製の「キングブレード・マックス(発光部サイズ:φ30mm×H150mm,全長250mm),JANコード:4562342920072」
〇甲2文献(特開2000-90702号)
「コンサート会場や夜間の遊園地において、会場の雰囲気を盛り上げる道具としてステックライト(ペンライト若しくはチアライトともいう)がある。観客は声援を送りながらこのスティックライトを振りかざす(【0002】)。」
「かかる従来のステックライトでは、光源として1つの発光ダイオードしか用いられていない。従って、発光色変化が乏しく、いわゆる面白みに欠ける。そこでこの発明は、種々の発光態様を持つ新規な構成のステックライトを提供することを目的とする(【0003】)。」
「このように構成されたこの発明のスティックライトによれば、光の三原色を構成する各色を発光する発光ダイオードが備えられ、その各発光ダイオードが個別に制御されるので、光源部を任意の色に発光させることができる(【0005】)。」
「この発明のスティックライトでは、…スイッチを1度押すたびに、赤→黄→緑→青緑→青→紫→白(以下この繰り返し)の順で色が変化する(【0012】)。」
 
【裁判所の判断】
取消事由1(相違点1についての容易相当性の判断の誤り)について
ウ 検討
(ア)a(a) 前記第2の3(1)の引用発明の構成及び前記(1)の本件引用商品のパッケージの記載からすると,本件引用商品は,コンサート等で利用される携帯 用の棒状ライトであることが認められ,また,前記アの甲2文献の記載からすると,甲2文献には,発光ダイオードを光源としたスティックライト,すなわち携帯用の棒状ライトが記載されており,同棒状ライトは,主に,コンサート等において利用することを想定されているものと認められるから,引用発明及び甲2文献に記載された事項は,いずれも,コンサート等において利用される携帯用の棒状ライトに関するものであり,その技術分野が同一である。
(b) また,前記アのとおり,甲2文献には,「コンサート会場や夜間の遊園地において,会場の雰囲気を盛り上げる道具としてスティックライト(ペンライト若しくはチアライトともいう)がある。観客は声援を送りながらこのスティックライトを振りかざす。」,「かかる従来のスティックライトでは,光源として1つの発光ダイオードしか用いられていない。従って,発光色変化が乏しく,いわゆる面白みに欠ける。そこでこの発明は,種々の発光態様を持つ新規な構成のスティックライトを提供することを目的とする。」との記載があるところ,同記載からすると,甲2文献には,従前の棒状ライトが,光源が一つであったために,面白みに欠け,そのため,コンサート会場等の雰囲気を盛り上げる機能が不十分であったということを課題とし,棒状ライトの発光色を複数の任意の色として同課題を解決したことが記載されている。
他方,前記(a)のとおり,引用発明は,コンサート等で利用される携帯用の棒状ライトであるから,引用発明には,コンサート等において会場の雰囲気を盛り上げるという,甲2文献に記載された事項の有する上記課題を有するものということができる。
(c) そうすると,本願発明の進歩性の判断において,引用発明を主引例とし,本願発明と引用発明の相違点について,甲2文献に記載された事項を適用することの動機付けは,十分認められるというべきである。
b また,前記イで認定した事実からすると,白色光を発光する発光ダイオードが存在すること,同発光ダイオードを携帯可能な照明機器等の発光源として,非白色を発光する発光ダイオードと一緒に利用することは,本件原出願日において,照明機器やイルミネーションの分野における周知技術であり,各種の機器において用いることが知られていたものと認められる。
c そして,相違点1は,本願発明が,「前記発光部は,白色光を発する発光ダイオードを備えるものであって,発光ダイオードである発光体を用いて,各発光体が複数の発光色に発光することを可能とし」たものであるのに対して,引用発明は,発光部がそのように特定されていない点であるが,前記アで認定した事実からすると,甲2文献には,発光部として,複数の発光色に発光する発光ダイオードを備えていることが記載されており,また,前記bのとおり,携帯可能な照明機器等の発光源として白色発光ダイオードを非白色の発光ダイオードと一緒に利用することは周知技術であり,各種の機器において用いることが知られていたのであるから,引用発明に甲2文献に記載された事項及び上記周知技術を適用して,相違点1に係る本願発明の構成を備える引用発明とすることは容易に想到することができるというべきである。
 
取消事由2(相違点2についての容易相当性の判断の誤り)について
(1) 引用発明の内容等は,前記2(1)のとおりである。
なお,本件引用商品のパッケージには,前記2(1)の記載の他に,「③光量調節・・・スイッチを押すたびに4段階光量を調節できます。」との記載がある(甲11)。
(2) 本件発明と引用発明との対比
本件発明と引用発明との相違点として,前記第2の3(2)の相違点2があること は,当事者間に争いがない。
(3) 相違点2の容易想到性
相違点2の構成が甲2文献に記載されていることは,当事者間に争いがない。
前記2のとおり,引用発明と甲2文献に記載された事項とは,いずれも
携帯用の棒状ライトに関し,また,引用発明は,コンサート等の雰囲気を盛り上げるという,甲2文献に記載された課題を有している。
そして,前記(1)のとおり,本件引用商品のパッケージには,「光量切替え機構により明るさ4段階!」,「③光量調節・・・スイッチを押すたびに4段階光量を調節できます。」との記載があることからすると,引用発明には,発光体の照度を切り替えることが示唆されているといえる。
したがって,引用発明に甲2文献に記載された事項を適用して,相違点2に係る本願発明の構成を備える引用発明とすることは容易に想到することができるというべきである。
 
【結論】
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
 
【所感】
 本判決については妥当である。主引例(引用発明)に対して副引例(甲2文献)を適用することについて、技術分野の関連性や課題の共通性等に言及していることから、十分に動機付けがあるといえるからである。本件において、甲2文献の存在が審決および判決に大きく影響したと思われる。出願時において先行技術調査を十分に行うことがやはり肝要である。