接触端子事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2016.3.17
事件番号 H26(ワ)20422
担当部 東京地裁民事第46部
発明の名称 接触端子
キーワード 用語の意義の解釈
事案の内容  特許権侵害が認められなかった事案。
 被告はアップル、原告はアップルの下請け(島野製作所)であり、リアル「下町ロケット」と話題になった裁判(神谷弁護士のモデルとされる鮫島弁護士が原告代理人)。
 「球状」という用語の意義の解釈に、審査経緯が加味された点がポイント。

事案の内容図(請求項1)を含む全文

[本件の経緯]
Aは親出願 Bは本件 丸付き数字は裁判所の認定の記載に対応
平23.09.05 ②優先日
平23.12.13 ②特許願(A)
平24.06.13 国際出願
平24.08.12 被告製品のレビューが投稿(被告製品が既に販売開始?)
平24.12.28 出願審査請求書(A)
平25.01.18 手続補正書(A)
平25.01.18 早期審査に関する事情説明書(A)
平25.02.25 拒絶理由通知書(A)
平25.03.14 国際公開
平25.04.18 公開公報(A)
平25.04.19 意見書、手続補正書(A)
平25.04.19 ①②③特許願(B)
平25.05.14 特許査定(A)
平25.08.01 公開公報(B)
平25.09.04 特許公報(A)
平25.10.11 ④手続補正書(B)
平25.10.11 出願審査請求書(B)
平25.10.11 早期審査に関する事情説明書(B)
平25.10.25 ⑤拒絶理由通知書(分割要件違反)(B)
平25.11.08 ⑥意見書、手続補正書(B)
平25.11.26 面接記録(B)
平25.11.27 特許査定(B)
平26.03.19 特許公報(B)

 

【請求項1】(符号および括弧内の記載は、参考のために追記した)
A 管状の本体ケース11内に収容されたプランジャーピン20の該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子10であって,
B 前記プランジャーピン20は前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケース11の管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部22を有する段付き丸棒であり,
C 前記プランジャーピン20の前記突出端部を前記本体ケース11から突出するように前記本体ケース11の管状内部に収容したコイルバネ31で付勢し,
D1 前記プランジャーピン20の中心軸M2とオフセットされた中心軸M2を有する前記大径部22の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,
D2 押付部材の球状面からなる球状部(絶縁球30)を前記コイルバネ31によって押圧し,
D3 前記大径部22の外側面を前記本体ケース11の管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子10。

 

[裁判所の判断]

(2) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「押付部材」との語は一切用いられていない。本件発明の接触端子においてプランジャーピンとコイルバネの間に介在する部材として開示されているのは「絶縁球」のみであり,図面に示されたのも球のみである。
(中略)
以上のとおり,押付部材として本件明細書に開示されているのは球のみであり,これと異なる形状の押付部材があり得ることを示唆する記載は見当たらない。そうすると,本件明細書の記載を考慮すると,本件発明における押付部材の形状は球に限られると解するのが相当である。
 
(3)
①本件特許は,特願2011-192407号を優先権の基礎とする特願2011-271985号(原出願)から分割出願されたものであること(甲2),
②上記優先権の基礎とされた出願及び原出願は,いずれも名称を「接触端子」とする発明に関するものであり,特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を通じ,プランジャーピンとコイルバネの間に介在する部材として記載されているのは「絶縁球」のみであること(乙13,14),
③本件特許は平成25年4月19日に分割出願されたものであり,その特許請求の範囲に,プランジャーピンとコイルバネの間に「押付部材」を介在させる旨記載されたこと(乙15),
④原告は,同年10月11日,押付部材に係る特許請求の範囲の記載を「少なくとも一部に球状面を有する押付部材の球状部」と補正したこと(乙17),
⑤これに対し,同月25日,特許法36条6項1号違反を理由1(発明の詳細な説明には押圧部材に絶縁球を用いることが記載される一方,請求項1には絶縁性を有しない押圧部材が記載されていること),同法29条1項3号及び2項の違反を理由2及び3(原出願に「押付部材」として記載されていたのは「絶縁球」のみであり,これを「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」とすることは適法な分割出願でないので,請求項1記載の発明は原出願の公開特許公報により新規性又は進歩性を欠くこと)とする拒絶理由通知が発せられたこと(乙4),
⑥原告は,同年11月8日,上記④の補正後の特許請求の範囲の記載を「押付部材の球状面からなる球状部」と補正する旨の手続補正書と,絶縁性を有しない押付部材でも本件発明の効果を奏するので,発明の詳細な説明に記載されたものといえる旨の意見書を提出したこと(乙5,6),⑦同月27日に特許査定がされたこと(乙19),以上の事実が認められる。
 
上記事実関係によれば,本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるということができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有することが明らかである。)。
 
(4) 以上によれば,構成要件D2の「押付部材」は「球」に限定されると解すべきものであって,別紙被告ポゴピン断面図記載の「コマ」がこれに当たるとは認められないから,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断するのが相当である。
 
(5) これに対し,原告は,
①「押付部材」については,特許請求の範囲の文言上,「球状面からなる球状部」を備えるという限定しかない,
②本件明細書には「球」が開示されているから,「球状面」も開示されている,
③コイルバネの弾性力の作用する方向を変更させてプランジャーピンを傾かせるという本件発明の技術的意義を実現するには,押付部材の一部に球状面があれば足りる,
④前記⑶⑥の補正は,表現を分かりやすくするためであり,「押付部材」を「球」に限定するものでない旨主張する。
そこで判断するに,
上記①の主張は前記⑴及び⑵で説示したところに照らし失当である。
上記②の主張につき,本件明細書が開示するのが球のみであることは前記⑵のとおりであり,表面の一部に球状の部分がありさえすれば他の部分はいかなる形状であってもよい旨の開示があるとは解し得ない。
上記③の主張につき,技術的意義について原告主張のように考えられるとしても,本件明細書には一部に球状面があれば足りることをうかがわせる記載はなく,原告の主張は本件明細書の記載を離れたものというほかない。
上記④につき,原告主張のように一部が球状面であればよいというのであれば補正前の「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」との記載のままで十分明確であり,原告がこれを「押付部材の球状面からなる球状部」と補正したのは,「少なくとも一部」と記載したのでは分割要件違反により新規性又は進歩性を欠く旨の拒絶理由を回避するためであったとみるのが合理的である。

 

[所感]
 判決は妥当である。
 親出願の出願時に、「絶縁球」の形状の技術的意義を捉え、少なくとも何れの部位が球状であれば良いのか、という点についての検討し、明細書に詳細に開示していれば、今回のような判断にはならなかった可能性がある。
 なお、被告は、本件特許の親出願の出願後、公開公報発行前に、被告製品の少なくとも一部の販売を開始した可能性がある。
 被告製品目録は下記の通り。

Apple 45W MagSafe2 電源アダプタ
Apple 85W MagSafe2 電源アダプタ
Apple 60W MagSafe2 電源アダプタ

Macbook Air
Macbook Pro
 
 
 被告は、公開公報発行前に本件の内容を知得し、巧妙に侵害を回避して製品設計をしたのかも知れない。
 仮にそうだとすれば、被告の作戦勝ちともいえる一方、原告の知財保護に隙があったともいえる。
 なお、本件には、外国ファミリー出願が多数あり、現在、米国、中国、台湾で特許公報が発行済みである。
 米国および中国で特許された請求項1は、次項の通りである。
 
 また、本件は、分割出願の要件違反に伴い、親出願の公開公報によって新規性を否定されているが、本件の現実の出願日は、親出願の公開公報発行日の翌日である。
 但し、国際出願が、更に1か月以上、早く公開されている。
 それでも、拒絶理由通知書を受領してから直ぐに本件を出願しておけば、上記のように新規性を否定されることはなかったことになる。
 この点については、代理人が善処すべきだったと感じた。
 
 なお、一般論として、分割出願を手続する際に、新規性が喪失されていないのであれば、審査を受けたい発明を、出願後に補正するのではなく、出願時の特許請求の範囲に記載すべきである。
 こうすれば、上記内容が親出願の範囲内であるかに疑義があったとしても新規事項の追加の拒絶理由/無効理由を回避できる。 

 

米国
1. A contact terminal for providing an electrical connection by contacting a protrusion end portion of a plunger pin protruding from a main body case having an elongate hole with a target portion, the contact terminal comprising the main body case and the plunger pin, wherein said plunger pin received in said elongate hole of said main body case comprises a round bar with a step, having a small diameter portion including said protrusion end portion and a large diameter portion being able to slide on an inner surface of said elongate hole of said main body case to freely move in a longitudinal direction thereof; and said plunger pin is pressed by a coil spring received in said main body case to protrude said protrusion end portion of said plunger pin from said main body case, and said coil spring presses a ball face of a press member to an oblique pit portion having a cone surface-shape on said large diameter portion, said ball face contacting the oblique pit portion in at least two locations and a center axis of said oblique pit portion is sifted from a center axis of said plunger pin to press an outer surface of said large diameter portion onto said inner surface of said elongate hole of said main body case.

 

中国(日本特許庁提供の翻訳)
1.接触端子、本体ケースに設置する非貫通長孔に挿入する縫いはづれの、この本体ケースから突出する突端部と対象部位の相を且つ電気的な接続を実現することに接触させることに用いて、その特徴は、
上記の縫いはづれが小径部と径大部を有する持つ段差とする丸棒、この小径部は上記の突端部を含み、この径大部は上記の非貫通長孔の内面に摺動しながら、移動自在に縫いはづれの長手方向に沿う、上記の径大部の端部に凹穴としての切削セクションを形成し、この凹穴は上記の縫いはづれとの中心軸を有することを含むことはその上この縫いはづれの中心軸からずれる中心軸の円錐面と並行して、
コイルバネ球状の面をこの切削セクションに押圧することで従って縫いはづれに対して加勢し、上記の縫いはづれの上記の突端部を上記本体ケースから突出させることで、同時に上記の径大部の側面部を上記の非貫通長孔にの上記の内面は加勢する。