多角形断面線材用ダイス審決取消請求事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2023.02.08
事件番号 R4(行ケ)10019
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 多角形断面線材用ダイス
キーワード 第三者の利益が不当に害されるほどに不明確
事案の内容 本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消訴訟である。本件審決は、本件各発明の「略多角形」は明確であると判断した。本判決は、以下のとおり、本件各発明の「略多角形」が明確であるとした本件審決の判断には誤りがあるとして、本件審決を取り消した。

事案の内容

【事件の経緯】
 平成27年9月6日 出願
 平成28年11月4日 設定登録
 平成29年5月12日 原告により特許異議の申立て
 平成30年5月1日 訂正請求
 平成31年1月30日 訂正が認められ、特許異議の申立てを却下
 令和2年4月21日 特許無効審判の請求
 令和4年1月20日 請求棄却
 令和4年2月28日 本件訴提起
 
【本願発明】
【請求項1】
A 略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーと、
B 内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれるボックスと、を含む引抜加工機であって、
前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し、
D 前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じであることを特徴とする引抜加工機。
 
 以下、下線は筆者が付した。
 
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り・無効理由2-3関係)につ
いて
 本件審決は、発明特定事項Cにおける「略多角形」との記載が明確であると判断したが、以下のとおり、本件審決の判断は誤りである。
(1) 「基礎となる多角形断面」と「略多角形」との区別について
 本件明細書の記載(段落【0058】)によると、「基礎となる多角形断面」には、ダイスの製造に一般に用いられるワイヤー放電加工によって形成されたベアリング部の開口部が六角形や十二角形のような場合が含まれる。そして、本件明細書の記載(段落【0054】~【0057】)によると、「基礎となる多角形断面」の形状を前提に、当該形状に変更を加えることで「略多角形」となることから、「基礎となる多角形断面」と「略多角形」は、本来、別の概念であり、区別が可能なものでなければならない。
 しかしながら、本件明細書の記載(段落【0076】、図13)によると、「略多角形」には、「基礎となる多角形断面」の角を鈍角の集合として構成したものが含まれ、例えば、「基礎となる多角形断面」が六角形で、この六角形の角を通常のワイヤー放電加工によって鈍角の集合として構成し十二角形としたものは、「略多角形」(略六角形)に該当するところ、このような「略多角形」(略六角形)は、最初からダイスのベアリング部の開口部を十二角形としたものと何ら違いはなく、「基礎となる多角形断面」(十二角形)にも該当することになる。
 したがって、当業者は、通常のワイヤー放電加工によって形成されたダイスのベアリング部の開口部の形状(「基礎となる多角形断面」)と「略多角形」の形状とを区別することができず、どのような処理を行えばダイスのベアリング部の開口部の形状が「基礎となる多角形断面」から「略多角形」となるのか本件明細書の記載から理解することができないから、発明特定事項Cにおける「略多角形」との記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
 
(2) 「略多角形」の角部の形状について
 ダイスのベアリング部の開口部は、ワイヤー放電加工により形成される(甲31)。そして、ダイスの加工においては、0.2~0.3mm程度の放電ワイヤーを用いることが通常であるため、実際の加工においては、開口部の角部に、最小でも曲率半径0.2~0.3mm程度の円弧が生じることになる(甲31、36、37)。
 他方、本件明細書には、「基礎となる多角形断面」の角に当たる部分をどの程度丸めると「略多角形」に該当するのかについては、何らの判断基準も示されておらず、段落【0055】の記載をみても、「基礎となる多角形断面」の角を丸めて「略多角形」とする場合のパラメータが何であり、当該パラメータの下限値が幾つとなるのかは明確でない(なお、本件審決は、段落【0055】の記載を根拠に、「0.8mm」という曲率半径の特定の値のみを恣意的に取り出した上、これを本件各発明の構成要件として読み込むことにより、「略多角形」に含まれる形状の範囲が不明確になることはないと判断したが、このような読み込みは、本来であれば特許請求の範囲の記載の訂正により行われなければならない不明瞭な記載の明確化を解釈により行うものであり、不適切な限定解釈である。)
 また、本件各発明の技術的意義がダイスのベアリング部の開口部の断面形状を「略多角形」とすることで、潤滑剤がたまる角がなくなるという点にあることからすると、当該断面形状が「略多角形」に該当するか否かの判断に当たっては、曲率半径の値のみに着目するのは間違いであり、1辺の長さに対する曲率半径の値をみる必要がある。本件明細書の段落【0055】に記載された実施例では、1辺4mmの四角形断面のベアリング部の開口部において、その角を曲率半径0.8mmの円弧としたものが挙げられているところ、これは、開口部の断面が1辺1.5mmの四角形である場合にその角を曲率半径0.3mmの円弧としたものと相似である(また、開口部の断面が1辺4mmの四角形である場合にその角を曲率半径0.5mmの円弧としたものは、開口部の断面が1辺2.4mmの四角形である場合にその角を曲率半径0.3mmの円弧としたものと相似である。)。
 このように、当業者は、ワイヤー放電による通常の加工により生じる円弧を開口部の角にする形状と「略多角形」の形状とを客観的な外観の形状から区別することができず、どのような形状が「略多角形」に属するのか判断することができないから、発明特定事項Cにおける「略多角形」との記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
 
第4 被告の主張
1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り・無効理由2-3関係)につ
いて
(1) 「基礎となる多角形断面」と「略多角形」との区別について
 原告が主張するように、「基礎となる多角形断面」が六角形である場合に、この六角形の角を通常のワイヤー放電加工によって鈍角の集合として構成した結果、十二角形となることは想定できない。また、原告が「略多角形」に該当すると主張する十二角形は、角に当たる部分が円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えられていないものであって、「略多角形」には該当しない(原告が「略多角形」に該当すると主張する十二角形は、角が鈍角の集合である場合を表す本件明細書の図13と比較しても、その形状が異なる。)。
 以上のとおりであるから、「基礎となる多角形断面」と「略多角形」とを区別することができることは明らかであり、これらを区別できないとする原告の主張は理由がない。
(2) 「略多角形」の角部の形状について
 ア 本件各発明の目的は、「潤滑剤の塊の発生を極力防ぐこと及びそのメンテナンスに要する時間を極力低減させ、結果多角形断面線材の製造コストの低減を図る手段を提供すること」であるところ、本件明細書の記載内容からすると、当業者であれば、「略多角形」とは、潤滑剤がたまる角がなくなるように積極的な処理をしたものであり、ワイヤー放電加工において角に不可避的に生じる丸みは含まれないと容易に認識できる。
 そして、当業者であれば、角がなくなるように積極的な処理をするということは、ワイヤー放電加工において角に不可避的に生じる丸みよりも曲率半径を大きくすることであり、両者には差異があると容易に理解できる。
 イ 原告は、ダイスのベアリング部の開口部の断面形状が相似であれば、角に潤滑油がたまるか否かという点で違いはないと主張する。しかしながら、開口部の角に潤滑剤がたまるか否かは、あくまで角の丸みの曲率半径の大きさに依拠するものである。
 すなわち、角の丸みの曲率半径がワイヤー放電加工によって不可避的に生じる0.2~0.3mm程度であると、曲がり方が急となって角が角のままである場合と同様に潤滑剤が局所的に集まりやすいのに対し、角を丸める積極的な処理を行って丸みの曲率半径を大きくすると、曲がり方が緩やかになって、角が角のままである場合と大きく異なり、潤滑剤がスムーズに分散して局所的に集まりにくくなる。
 したがって、開口部の断面の大きさが1辺4mmであっても1.5mmであっても、角を丸める積極的な処理を行う方が、角がワイヤー放電加工によって不可避的に生じる丸み(曲率半径が0.2~0.3mm程度の丸み)を有するままである場合よりも潤滑剤がたまりにくくなる。原告の上記主張は理由がない。
 ウ なお、原告は、本件審決は「0.8mm」という曲率半径の特定の値のみを恣意的に取り出した上、これを本件各発明の構成要件として読み込むことにより、「略多角形」に含まれる形状の範囲が不明確になることはないと判断したと主張する。
 しかしながら、本件審決は、特定の数値のみを取り出して本件各発明の構成要件として読み込んだのではなく、あくまで「略多角形」の解釈における例示として、本件明細書の段落【0055】の記載を基に、「基礎となる多角形断面」に対して潤滑剤がたまる角がなくなるような積極的な処理をした状態を説明しているにすぎない。原告の上記主張は理由がない。
 
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り・無効理由2-3関係)について
(1) 明確性要件について
 特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。
 同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。
 そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 字義からみた「略多角形」の意義
 「略多角形」とは、その字義からみて、おおむね多角形の形状をした図形をいうものと解されるが、具体的にどのような形状の図形が「略多角形」に該当するかは、その字義からは明らかでないといわざるを得ない。
 
(4) 本件各発明の「略多角形」の意義
 前記(3)によると、本件各発明が属する技術分野(線材の引抜加工機及びこれに用いるダイス)においては、従来、多角形の断面を有する線材の製造に際し、ダイスのベアリング部の開口部(以下「開口部」という。)の角部に潤滑剤がたまって塊が発生し、その除去のために作業を一旦止める必要があるため、生産量が低下して製造原価が下がらない一因となっていたところ、本件各発明は、潤滑剤の塊の発生を極力防ぎ、また、ダイスのメンテナンスに要する時間を極力削減し、その結果、多角形の断面を有する線材の製造コストの低減を図ることを目的として、当該角部の全部又は一部につき、これを円弧とし、鈍角の集合とし、又は自由曲線とすることにより、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるようにしたものであるといえる。
 加えて、本件明細書における「略多角形」の定義(段落【0057】)にも照らすと、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)を得るため、「基礎となる多角形断面」の角部の全部又は一部を円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えた図形(以下、角部を円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えることを「角部を丸める」などといい、角部に生じた円弧、鈍角の集合又は自由曲線を「角部の丸み」などということがある。)をいうものと解することができる。
 そして、前記(3)によると、「基礎となる多角形断面」とは、従来技術における開口部(角部を丸める積極的な処理をしていないもの)の断面を指すものと解されるから、結局、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の上記効果を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応解することができる。なお、これは、前記(2)の字義からみた「略多角形」の意義とも矛盾するものではない。
(5) 「略多角形」と「基礎となる多角形断面」との区別
 前記(4)のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」の角部の全部又は一部を丸めた図形をいうものと一応解されるから、両者の意義に従うと、両者は、明確に区別されるべきものである。
 しかしながら、証拠(甲31、32、36、37)及び弁論の全趣旨によると、ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を形成するくり抜き加工をした場合、開口部の角部には、不可避的に丸みが生じるものと認められる。
 そうすると、「基礎となる多角形断面」も、くり抜き加工をした後の開口部の断面である以上、角部が丸まった多角形の断面であることがあり、その場合、客観的な形状からは、「略多角形」の断面と区別がつかないことになる。
 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」には、上記のように加工に際して角部に不可避的に生じる丸み(例えば、曲率半径が0.3mm程度以下の小さなもの)を有するにすぎない「基礎となる多角形断面」を含まないと判断し、被告も、これに沿う主張をする。
 しかしながら、開口部の角部の丸みの曲率半径が0.3mm程度以下であれば、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発明の効果が得られないものと認めるに足りる証拠はなく、当該曲率半径が0.3mm程度以下の場合であっても、本件各発明の上記効果が得られる可能性があるから、当該曲率半径がどの程度を超えれば本件各発明の上記効果が得られるようになるのかは、客観的に明らかとはいえない。
 また、証拠(甲31、32、36、37)及び弁論の全趣旨によると、上記のようにワイヤー放電加工に際して開口部の角部に丸みが不可避的に生じるのは、加工に用いるワイヤーの断面形状が一定の直径を有する円形であるからであると認められ、ワイヤーの断面の直径が小さくなれば、その分だけ、不可避的に生じる丸みの曲率半径は小さくなるといえるから、開口部の角部の丸みについては、その曲率半径がどの程度まで小さければ不可避的に生じる丸みであるといえ、どの程度より大きければ不可避的に生じる丸みを超えて積極的に角部を丸める処理をしたものであるといえるのかを客観的に判断する基準はないというほかない。
 そうすると、客観的な形状からは、「基礎となる多角形断面」と「略多角形」とを区別するのは困難であるといわざるを得ない。
以上のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」と区別するのが困難であり、本件各発明の技術的範囲は、明らかでない。
 
(6) 「略多角形」の角部の形状
 前記(5)のとおり、ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を形成するくり抜き加工をした場合、開口部の角部には不可避的に丸みが生じるから、「基礎となる多角形断面」の角部を丸めるための積極的な処理をしようとしまいと、開口部がくり抜き加工のされた後のものである以上、開口部の角部には、全て丸みがあり得ることになる。
 そして、前記(5)のとおり、開口部の角部の丸みについては、その曲率半径がどの程度まで小さければ不可避的に生じる丸みであるといえ、どの程度より大きければ不可避的に生じる丸みを超えて積極的に角部を丸める処理をしたものであるといえるのかを客観的に判断する基準はないし、また、当該曲率半径がどの程度を超えれば本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)が得られるようになるのかは、客観的に明らかとはいえない。
 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」は「基礎となる多角形断面」に対して潤滑剤がたまる角部がなくなるように更に積極的な処理をした状態のもの(例えば、少なくとも角部の円弧の曲率半径が0.8mm程度のもの)と解されると判断し、被告も、これに沿う主張をする。
 しかしながら、本件明細書には、開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発明の上記効果を奏する条件について、1辺4mmの四角形断面の棒材を作成する場合に、開口部の1つの角部を曲率半径0.8mm程度の円弧(曲線)で結ぶと、角部にたまっていた潤滑剤の塊が1か所に固まりづらくなる旨の記載(段落【0055】)があるのみであるところ、1辺4mmの四角形断面の開口部の角部を曲率半径が0.8mm程度より小さい円弧とした場合に本件各発明の上記効果が得られないものと認めるに足りる証拠はないし、その断面形状が1辺4mmの四角形以外の多角形である開口部も含めると、開口部の角部にどの程度の丸みを帯びさせれば本件各発明の上記効果が得られるのかを客観的に明らかにするのは困難であるといわざるを得ない(なお、被告は、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、作成すべき棒材の断面の大きさにかかわらず、当該角部の丸みの曲率半径によって決せられ、当該曲率半径が0.3mm程度以下であれば、本件各発明の上記効果が得られないと主張する。しかしながら、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、当該角部の丸みの曲率半径の大きさのみならず、線材の種類、潤滑剤の種類、加工発熱の度合い等の様々な要素によって左右されるものであると解され、当該曲率半径が0.3mm程度以下であれば、一律に本件各発明の上記効果が得られないと認めることはできないから、被告の主張を採用することはできない。)。
 以上によると、本件各発明の「略多角形」については、特許請求の範囲の記載、本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を踏まえても、「基礎となる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものがこれに該当するのかが明らかでなく、この点でも、本件各発明の技術的範囲は、明らかでないというべきである。
 
(7) 小括
 以上のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によると、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応解することができるものの、客観的な形状からは、本件各発明の「略多角形」と「基礎となる多角形断面」とを区別することができず、また、「基礎となる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものが本件各発明の「略多角形」に該当するのかも明らかでなく、本件各発明の技術的範囲は明らかでないというほかないから、本件各発明の「略多角形」は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であると評価せざるを得ず、その他、本件各発明の「略多角形」が明確であると評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって、取消事由1は理由がある。
 
【所感】
 明細書には開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発明の上記効果を奏する条件について、1辺4mmの四角形断面の棒材を作成する場合に、開口部の1つの角部を曲率半径0.8mm程度の円弧(曲線)で結ぶ旨の記載があるのみであるところ、開口部の角部にどの程度の丸みを帯びさせれば本件各発明の上記効果が得られるのかを客観的に明らかにするのは困難であると判示された。
 曲率半径の数値範囲を記載する等、特許請求の範囲に記載された「略多角形」を判断できる客観的基準を記載すべきだったと考えられる。
 本判例から、特許請求の範囲に「略」や「約」等の表現を使用することは避けるべきであるが、使用するのであれば客観的にその範囲が把握できるように記載すべきであることが伺える。