ロート眼科用組成物事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2017.08.29
事件番号 H(行ケ)10162
担当部 知財高裁第4部
発明の名称 眼科用組成物
キーワード 容易想到性
事案の内容 本件は、拒絶審決の取り消しを求める訴訟であり、請求が棄却された事案。
同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる点は、周知技術を適用することにより当業者が容易に想到できると判断された点がポイント。

事案の内容

【原告の出願番号】
出願番号    特願2013-89552号
 
【請求項1】
(A)セルロース系高分子化合物,ビニル系高分子化合物,ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上,及び(B)テルペノイドを含有するコンタクトレンズ用装着点眼液であって,
同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる,コンタクトレンズ用装着点眼液。
 
【審決の理由の要点】
 本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
ア 引用例:特開2006-241085号公報(甲2)
イ 周知例1:特開2007-77167号(甲3。平成19年3月29日公開。)
ウ 周知例2:国際公開2007/088783号(甲4。平成19年8月9日国際公開。)
 
本願発明と引用発明との一致点及び相違点
(ア) 一致点
(A)セルロース系高分子化合物,ビニル系高分子化合物,ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上,及び(B)テルペノイドを含有する眼科用組成物
(イ) 相違点
本願発明は,眼科用組成物が「コンタクトレンズ用装着点眼液」であって,「同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる」ものであるのに対し,引用発明においては単に「眼科用組成物」としている点
 
【当裁判所の判断】
エ 周知例1,周知例2,乙1から認められる技術
(ア)・・・周知例1,周知例2及び乙1は,同一の眼科用組成物を,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることについて,具体的な実施例を前提にしたり(乙1),具体的な用法をもって説明したり(周知例1,乙1),個別の用途だけではなく,両方の用途に用いることも可能であることを明示したりしつつ(周知例2),開示している。
(イ) また,周知例1,周知例2及び乙1に記載された眼科用組成物の組成はそれぞれ異なるところ(周知例1【請求項1】,周知例2の請求の範囲[1],乙1【表4】),異なる組成を有する眼科用組成物においても,コンタクトレンズ装着液とコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に使用する態様が開示されている。
したがって,様々な眼科用組成物において,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物を調製することが知られていたということができる。
(ウ) よって,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物は,本願優先日当時の周知技術であったということができる(以下,この周知技術を「本件周知技術」という。)。
 
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,コンタクトレンズ装着液とコンタクトレンズ装用中の点眼液は,使用目的,滴下する対象及び機能発揮時の状態が異なると主張する。
しかし,いずれも,コンタクトレンズが眼に及ぼす影響を軽減するために用いられるものであって,涙液層を安定化させるという作用効果を有する点においては同一である。コンタクトレンズ装着液に,装着行為そのものを容易にするという目的があったとしても,このことは否定されるものではない。
したがって,コンタクトレンズ装着液とコンタクトレンズ装用中の点眼液との間に,使用目的,滴下する対象及び機能発揮時の状態において相違する点があったとしても,本件周知技術の存在を否定することにはならない。
⑶ 本件周知技術の適用
ア 技術分野の共通性
引用発明は,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液に関する発明である。一方,本件周知技術も,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液に関するものである。
したがって,引用発明と本件周知技術の技術分野は共通する。
イ 作用機能の共通性
引用発明は,コンタクトレンズの濡れを持続させるものである(【0025】)。一方,本件周知技術も,涙液層の安定化システムに関する発明(周知例1【0001】),涙液交換の低下の問題の改善に関する発明(周知例2[0047]),コンタクトレンズの湿潤に関する発明(乙1【0064】)において適用可能な技術事項である。
したがって,引用発明と本件周知技術が前提とする発明の作用機能は共通する。ウ コンタクトレンズ装着液とコンタクトレンズ装用中の点眼液の関係
「医薬品製造指針 別冊 一般用医薬品製造(輸入)承認基準 2000年版」の「配合ルール表」(甲25,100頁)には,コンタクトレンズ装着液と,コンタクトレンズ装着中の点眼液に相当する人工涙液とは,主薬成分か佐薬成分かで違いはあるものの,配合可能成分及び配合不可成分が一致することが記載されている。
そうすると,当業者は,眼科用組成物の成分について,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことを,技術常識として有していたものである。
エ このように,引用発明と本件周知技術の技術分野は共通し,引用発明と本件周知技術が前提とする発明の作用機能も共通している上,眼科用組成物について,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことが知られている。
そして,眼科用組成物において,同一の組成をコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることにより利便性を向上させることは,引用発明も当然に有する自明の課題であるから,当業者は,本願発明と同様に利便性を向上させるために,引用発明に本件周知技術を組み合わせることを試みるというべきである。
よって,引用発明に本件周知技術を組み合わせる動機付けがあるということができる。
 
【所感】
 判決は妥当であると感じた。
 本件の場合、特異な効果が認められることも困難と考えられるとともに、引用発明に周知技術を組み合わせようとする動機付けがないとする主張も認められがたいと考えられる。