マルチデバイスに対応したシステムにおいて用いられる装置、その装置において実行される方法およびプログラム

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2015.12.17
事件番号 H27(行ケ)10018号
発明の名称 知財高裁第4部
キーワード 阻害要因、容易想到性
事案の内容 本件は、拒絶査定不服審判において引用発明に周知技術を適用して29条2項に基づいてされた拒絶審決が、取り消された事案。
引用発明に周知技術を適用することについて阻害要因があると判断して、容易想到性を否定した点がポイント。

事案の内容

【特許庁における手続の経緯】

平成25年10月29日  特願2013-224753号出願

平成26年 4月 2日  拒絶査定

平成26年 5月29日  拒絶査定不服審判請求(不服2014-10032号)

平成26年 7月29日  拒絶理由通知

平成26年 9月17日  手続き補正書(「本件補正」)

平成26年12月22日  不成立審決

平成27年 1月28日  本件訴訟を提起
【特許請求の範囲】

【補正後請求項1】審決の分説(下線等は担当者による)

A:マルチデバイスに対応したシステムにおいて用いられる装置であって,

B:前記装置は,ネットワークを介して,前記マルチデバイスとしての複数の端末のうちの少なくとも1つの端末に接続されるように構成され,

B1:前記装置は,プロセッサ部とメモリ部とを含み,

B2:前記メモリ部には,少なくとも1つのスタイルシートが予め格納されており,前記少なくとも1つのスタイルシートのそれぞれは,コンテンツの表示形式を定義

するものであり,前記少なくとも1つのスタイルシートのそれぞれは,コンテンツの表示形式を定義するものであり,前記少なくとも1つのスタイルシートのそれぞれは,前記少なくとも1つの端末のうちの1つに対応し,

C:前記プロセッサ部は,

C1:要求端末からの要求を前記ネットワークを介して受信することであって,前記要求端末は,前記少なくとも1つの端末のうちの1つである,ことと,

C2:前記要求端末のユーザ・エージェント情報を認識することにより前記要求端末のタイプを判定し,

C3:前記要求端末のタイプに応じたスクリプトを,前記ネットワークを介して,前記要求端末に送信し,前記送信されたスクリプトを前記要求端末が実行することによって前記要求端末において取得された前記要求端末の画面サイズを示す情報を,前記ネットワークを介して,前記要求端末から受信することによって,前記要求端末の画面サイズを示す情報を取得することと,

C4:前記要求端末の画面サイズを示す情報に少なくとも基づいて,前記少なくとも1つのスタイルシートのうちのスタイルシートを選択することと,

C5:前記選択されたスタイルシートに基づく情報を前記ネットワークを介して前記要求端末に提供することと

C:を行うように構成されている,

A:装置

*本願発明は、スタイルシートが、メモリ部に格納されており、プロセッサ部が要求端末の画面サイズを示す情報に基づいてスタイルシートを選択し、選択されたスタイルシートに基づく情報を要求端末に提供。

【審決の理由の要旨】

(1) 本願発明は,引用例に記載された引用発明及び周知例1から4に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

<引例1(特開2007-149052号公報(甲1))>

【請求項1 】

 ユーザに対して提示情報を提示する端末装置の動作環境を示す情報及び当該端末装置の種類を示す情報の少なくとも何れか一方を含む端末情報を取得する端末情報取得手段と、

 前記提示情報を構成する複数の素材データの提示形式を少なくとも規定する構造化データを取得する構造化データ取得手段と、

 前記取得された端末情報に基づいて、前記取得された構造化データに規定された素材データの提示形式を、当該端末装置に合った提示形式に調整する提示形式調整手段と、

 前記調整された前記提示形式で前記提示情報をユーザに対して提示させる提示手段と、

 を備えることを特徴とする情報提示装置。

(2)審決において認定された引用発明

p:端末装置1と,サーバ装置2と,を含んで構成されている情報提示システムSにおいて,

q:サーバ装置2は,/情報処理部(コンピュータ)21と,記憶部22を備える情報提示装置であって,

(r~t省略)

u:コンテンツ構成部21dは,前記提示情報を構成する複数の素材データの提示形式を少なくとも規定する構造化データを取得し,/取得された端末情報に基づいて,特に,取得された端末情報に含まれる表示画面サイズに合わせて,前記取得された構造化データに規定された素材データの提示形式を,当該端末装置に合った提示形式に調整し

v:コンテンツ提示部21eは,前記調整された前記提示形式で前記提示情報をユーザに対して提示させる,

q:情報提示装置であり,

u1:構造化データは,素材データの内容(オブジェクト(文字,画像,映像等)の内容)に相当する部分と,素材データの内容(オブジェクト)の提示形式・その制約条件等が分離してXMLにて記述されるものであり,/コンテンツ構成部21dは,提示形式・その制約条件等の内容を解釈し同内容に基づき,ページデータを要求してきた端末装置1に合った(適した)提示形式に調整した上で,/調整後の構造化データにおける素材データの提示形式に相当する部分が最終的にCSSで記述され,素材データの内容に相当する部分がXHTMLで記述されるようにフォーマット変換して,端末装置1に提供するページデータを生成するようになっており,

v1:コンテンツ提示部21eは,以上のように生成されたページデータ(XHTMLとCSSとから構成されるデータ)等を,ページデータを要求してきた端末装置1に対してネットワーク3を介して送信する,

q:情報提示装置

<審決により認定された引用発明と本願発明との相違点>

 引用発明の情報提示装置においては,

①本願発明の「メモリ部」に相当する「記憶部22」は,本願発明の「メモリ部」が備える構成を備えていない。

②「取得された端末情報に基づいて,特に,取得された端末情報に含まれる表示画面サイズに合わせて,前記取得された構造化データに規定された素材データの提示形式を,当該端末装置に合った提示形式に調整し,」(u)「調整後の構造化データにおける素材データの提示形式に相当する部分が最終的にCSSで記述されるようにフォーマット変換して,端末装置1に提供するページデータを生成して」(u1),

③そのページデータを「端末装置1に対してネットワーク3を介して送信する」(v1)こと

とされている。

*引用発明は、スタイルシートを生成する。

(3)審決において認定された周知技術

 周知例1から4に記載された周知技術Aは,端末装置の種類(通常画面サイズも異なる)に対応する複数のスタイルシート(CSS)をあらかじめ用意しておき,そのうちの1つを選択するようにすることであると認定した。

【取り消し事由】

(1)引用発明の認定の誤り並びに本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1)

(2)容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

【裁判所の判断】

(1)取消事由1について

 引用発明の認定に誤りはない。一致点の認定は誤りというべきもの。もっとも相違点を看過した誤りは認められないため、本件審決による一致点の認定の誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。

(2)取消事由2について

 裁判所は,引用発明に周知技術を適用することについては阻害要因があると判断して審決を取り消した。

(2-1)周知技術の認定:周知例3及び4には,周知技術A,すなわち,端末装置の種類(通常画面サイズも異なる)に対応する複数のスタイルシート(CSS)をあらかじめ用意しておき,そのうちの1つを選択するようにすることが開示されているものと認められる(甲4,甲5)。

(2-2)引用発明について:従来,サーバ装置から提供されるコンテンツデータは,端末装置の種類等の違いにかかわらず,同一の表示形式で提供されていたので,端末装置の画像解像度によっては,必ずしも提供されたコンテンツデータを適切に表示することができないという問題があった。その対策として,様々な種類の端末装置ごとに別々のコンテンツデータを製作(制作)し,それらのコンテンツデータを端末装置の種類ごとに分けてサーバ装置に用意しておく方法等があったものの,そのような方法においては,サーバ装置側に,バッチファイル等の複数の選択肢(例えば,バッチファイル等)をあらかじめ用意しておく必要があることから,端末装置の種類や機種の増加に伴って,サーバ装置側の製作負荷が膨大なものとなり,コストも増大するという問題がある。

 そこで,引用発明は,これらの問題をいずれも解決すること,すなわち,端末装置の特性や能力等に応じて別々のコンテンツ及び選択肢を用意することなく,コンテンツのメンテナンスに要する負担やコスト等を軽減しつつ,端末装置に応じた最適なコンテンツを提示することができる情報提示装置の提供を課題とした。そして,引用発明は,前記課題解決手段として,ユーザに対して情報を提示する端末装置の表示画面サイズを含む端末情報を取得し,コンテンツを構成するページに対応する構造化データに規定された素材データの提示形式を,前記端末情報に基づいて前記端末装置に合った提示形式に調整した上で,前記素材データをフォーマット変換してXHTML文書とCSSから成るページデータを生成するという構成を採用した。引用発明は,同構成を採用して,各コンテンツに係る素材データにつき,前記調整,変換を行い,最終的に各端末装置に合った提示形式を備えたページデータにすることにより,各端末装置の特性等に応じて複数のコンテンツ及び選択肢を用意しなくても,各端末装置に応じた最適なコンテンツを提供できるようにして,前記課題を解決するものである。

(2-3)周知技術Aについて:端末装置の種類(通常画面サイズも異なる)に対応する複数のスタイルシート(CSS)をあらかじめ用意しておき,そのうちの1つを選択するようにすることであり,これは,前記イ(ア)において従来技術の一例として挙げた「様々な種類の端末装置ごとに別々のコンテンツデータを製作(制作)し,それらのコンテンツデータを端末装置の種類ごとに分けてサーバ装置に用意しておく方法」と同様に,サーバ装置側に複数の選択肢をあらかじめ用意しておく必要があることから,端末装置の種類や機種の増加に伴って,サーバ装置側の製作負荷が膨大なものとなり,コストも増大するという問題を生じさせるものである。

そして,この問題は,引用発明がその解決を課題とし,前記イ(イ)の課題解決手段

の採用によって解決しようとした問題にほかならない。

(2-4)したがって,引用発明に周知技術Aを適用すれば,引用発明の課題を解決することができなくなることは明らかであるから,上記適用については,阻害要因があるものというべきである。

【所感】

裁判所の判断は、一理あるといえるものの、引用発明に対する周知技術の適用は容易であるとも感じた。