パーティクル濃度測定装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2016.03.16
事件番号 H27(行ケ)10129
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 パーティクル濃度測定装置
キーワード 一致点の認定の誤り
事案の内容 本件は、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決に対し、原告が取消を求めた事案である。争点は、一致点・相違点の認定である。測定対象となる「気流の流れの方向」に基づいて、一致点の認定には誤りがあると判断された点がポイント。

事案の内容

【経緯】
平成22年 6月15日 特許出願
平成25年10月 9日 拒絶理由通知
平成25年12月 4日 補正
平成26年 1月 6日 拒絶査定
平成26年 4月 9日 拒絶査定不服審判請求+補正
平成27年 5月26日 「本件審判の請求は成り立たない」との審決
平成27年 6月 5日 謄本送達

 

【争点】
(1)進歩性判断(一致点・相違点の認定、相違点の判断)
(2)手続違背の有無
※(2)については省略。

 

【パーティクル濃度測定装置】
クリーンルームなどにおいて、空気中に浮遊した塵埃等の粒子濃度を測定するための装置。

 

【補正後の本件請求項1】(下線部は、審決において認定された一致点を示す)
 実質的に環状の仕切り(10)を有し、この仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部と、
 前記開口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段(12A、12B)と、
 前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する、前記光膜に対する位置が固定である粒子検出撮像カメラ手段(15)と、
 前記光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する、前記粒子検出撮像カメラ手段により検出された粒子の総数に基づき、粒子濃度を算出する演算手段と、
 を有するとともに、
 前記測定領域形成部、前記光膜形成手段、及び前記粒子検出撮像カメラ手段が一体の状態で、
 前記粒子濃度cを、c=n/(r×v×T)の式により算出するようにした、ことを特徴とするパーティクル濃度測定装置。
ここで式内の各変数の定義は以下のとおりである。
c:粒子濃度
n:粒子数
r:計測領域面積(前記粒子検出撮像カメラ手段の検出対象領域)
v:気流速度(気流速度検出器から与えられる気流速度)
T:計測時間

 

【裁判所の判断】
1.認定事実
 …(2)引用発明について
 引用発明の目的は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出装置を提供することである。(【0006】)引用発明の検出装置は,①ビームの直径を拡大させる拡径手段(44)を有するので,分布手段(45)によって連続された方向に変化させられたレーザ光が分布する空間Sの厚さが,拡径後のビーム直径となることからより厚くなって,パーティクルの個数及び発生タイミングに加えて飛来方向及び飛来速度を検出できるようになり…

 

2.取消事由2について
(2)「直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」部分の認定について

 

 …次のとおり,引用発明の枠体は,「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした」ものではないから,審決の上記認定は,誤りである。

 

 すなわち,前記1(2)のとおり,引用発明は,従来の浮遊パーティクル検出装置がパーティクルの位置及び飛来のタイミングはある程度検出できるものの,パーティクルの飛来方向は検出できないという問題を踏まえてされたものであり,その目的は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出装置を提供することにある。つまり,引用発明は,パーティクルの飛来方向が不明であるからこそ,その飛来方向を検出しようとするものである。そして,引用発明の検出対象である浮遊パーティクルとは,前記1(2)のとおり,クリーンルーム内等の空気中に浮遊するパーティクル,すなわち,気流によって運ばれる微粒子であるから,その飛来方向は,実質的に,気流の方向に一致すると認められる。そうすると,引用発明は,パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを前提とするものであり,特定の方向からの気流を前提とはしていないものである。

 

 一方,本願補正発明の測定領域形成部は,特許請求の範囲の記載において,仕切りにより区画された開口内部を「直交して」気体が相対的に流れるようにしたものと特定され,

 

 さらに,粒子濃度c※を算出する際の気流の容積(分母)がr×v×T(r:計測領域面積,v:気流速度,T:計測時間T)で算定され,rとは開口内部の面積にほかならず,この算出方法で粒子濃度を算出できるのは,開口内部を通過する気体の流れの方向が開口面に直交する方向のみの場合であるから(気体の流れが開口面に直交していない場合に気流の容積を算定する際の基準面積r´は,開口内部の計測領域面積rよりも小さな値である。),本願補正発明は,仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにしたものに限定されていると認められる。

※…c=n/(r×v×T) nは粒子数

 

 以上からすれば,引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方向は,あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れの方向は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠体」は,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」には相当しない。

 

【結論】
 以上のとおり,取消事由2及び4は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取り消すべきものである。よって,主文のとおり判決する。

 

【所感】
 本判決の判断は妥当と考えられる。また、本件の争点となった「実質的に環状の仕切りを有し、この仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」という記載について、この記載では、限定的な条件下(例えば、一方向流型クリーンルームの天井フィルタ直下に水平配置したとき)での使用に制約されるのではと感じた。しかし、従属項において、気流が一方向でない、もしくは、気流が生成されていない条件下でも使用できる態様について記載されていたため、限定的な条件でのみ使用できる発明として扱われないよう考慮して作成された明細書であると感じた。

 

 「測定領域形成部を直線移動させれば、たとえ気流が生成されていなくとも、「相対的」には仕切り10により区画された開口内部を直交して気体が流れることになるから、光膜FLを単位時間に通過する気流の容積を把握できるのである。(段落番号【0041】)」