米国特許制度の紹介

(1)出願言語

欧州
 原則として英語(37CFR 1.52(b)(1)(ii))。
 ただし、英語以外、すなわち日本語の明細書でも出願可能(37CFR 1.52(d)(1))。
補充指令(Notice to File Missing Parts)から2カ月以内に翻訳文を提出する。

(2)マルチ従属クレームおよびクレーム加算

(2)-1 マルチ従属クレーム

 マルチ従属クレームは認められている。
 マルチのマルチ従属クレームは、認められない。

(2)-2 クレーム加算

 3を超える(4~)独立請求項:$480/項。
 マルチ従属クレームを含む出願:$860/出願。

(3)審査請求制度の有無

 なし。

(4)特許要件

(4)-1 コンピュータプログラムについての発明性

 「コンピュータプログラム」それ自体は発明とみなされない(101条, MPEP2106)。
 コンピュータプログラム関連発明は、”computer program product”, “non-transitory computer-readable recording medium”等の形式でクレームされる。

(4)-2 新規性

 「クレームされた発明が、その有効出願日前に、特許されたか、印刷刊行物に記載されていたか、
または、公に使用され、販売され、またはその他、公に利用可能であった場合」は、
特許を受けることができない(102条(a)(1))。
 「有効出願日」とは、
「その発明について、119条等の優先権を主張しているかまたは120条等の先の出願日の利益を主張している特許または特許出願については、
最先の出願の出願日。
それ以外については、特許または特許出願の実際の出願日。」(100条(i))

(4)-3 いわゆる拡大先願

 「(本願の)クレームされた発明が、『151条に基づき発行された特許』、
または『122(b)に基づき公開等された特許出願』に記載されている場合であって、
かつ、その特許または特許出願が、他の発明者の名前を記名して、
(本願の)クレームされた発明の有効出願日前に、有効に出願されていた場合」は、
特許を受けることができない(102条(a)(2))。
 ただし、「先願に開示された主題とクレーム発明が、その有効出願日前に、同一人に所有されていたか、
あるいは、同一人に譲渡される義務があった場合」は、先行技術とはならない(102条(b)(2)(C))。
 なお、このような先願も、自明性判断の根拠とされる。

(4)-4 新規性喪失および先願の例外

 「クレームされた発明の有効出願日前の1年以内の開示が、『発明者もしくは共同発明者』、
または『発明者もしくは共同発明者から直接もしくは間接的に主題を入手した他人』により、なされていた場合」は、
先行技術とはならない(102条(b)(1)(A))。
 この規定の適用を受けるための手続としては、あらかじめ明細書中でそのような開示について陳述しておいてもよいし(37CFR 1.77(b))、
この規定の適用を受ける必要が生じた際に、宣誓書を提出してもよい(37CFR 1.130)。

(4)-5 非自明性

 「クレームに記載された発明と先行技術との差異が、クレーム発明の有効な出願日前に、
クレーム発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって、
クレーム発明が全体として自明であったという程度のものである場合」には、
クレーム発明について特許を受けることはできない(103条)。

(4)-6 単一性

 「一つの出願の中に2以上の独立した区別可能な発明が含まれている場合」に、
審査官は、出願人に発明を選択するよう要求(限定要求。
リストリクション要求)する(37 CFR 1.142(a))。
 「一つの出願に、一つの包括クレームと、それに包含される区別可能な複数の種とが含まれている場合」には、
包括クレームが許可されない場合にクレームが限定されるべき範囲を選択するよう、審査官が出願人に要求(エレクション要求)する(37 CFR 1.146)。

(5)補正の制限(時期および内容)

(5)-1 時期的制限

(i)ファーストアクションの受領以前

 原則、可能(37 CFR 1.115(b))。

(ii)ノンファイナル(ファースト)アクションの受領後

 法定短縮期間(3カ月)以内(MPEP 710.02(b))。
 ただし、最大6カ月まで延長可能(133条)。

(iii)ファイナルアクションの受領後

 法定短縮期間(3カ月)以内(MPEP 706.07(f))。
 ただし、最大6カ月まで延長可能(133条)。

(5)-2 内容的制限

(i)ファーストアクションの受領以前

 新規事項を追加することはできない(112条1文、132条)。

(ii)ノンファイナル(ファースト)アクションの受領後

 新規事項を追加することはできない(112条1文、132条)。

(iii)ファイナルアクションの受領後

 新規事項を追加することはできない(132条)。
 さらに、以下のものに限定される(37CFR 1.116(a),(b))。
 ・クレームの削除。
 ・指摘された方式不備の解消。
 ・審判請求のためによりよい形式に補正。

(6)誤訳訂正

(6)-1 米国特許庁に日本語出願をした場合、PCT出願を米国に国内移行した場合

 可能(MPEP 2163.07)。

(6)-2 パリ条約の優先権を主張して米国特許庁に英語で特許出願をした場合

 明細書に、優先権主張の基礎となる明細書をIncorporation by Referenceしておけば可能(37 CFR 1.57(a), MPEP 2163.07) 。

(7)特許後の訂正

(7)-1 correction(訂正)

 特許証の誤記などを修正することができる。特許権者が請求できる(254条、255条)。
 訂正後は、最初から訂正後の内容で特許されたものとして扱われる。

(7)-2 reissue(再発行)

 明細書の欠陥など疵を理由として、特許が効力を生じないまたは無効とされる場合に、特許を訂正できる(251条)。
特許権者が請求できる。特許発行後2年以内であれば、請求項の拡張も可能。
 訂正の効力は、訂正前には及ばない。

(7)-3 ex parte reexamination(査定系再審査)

 特許庁が、刊行物の先行技術に基づいて、クレームの特許性を再審査する。誰でも請求できる。
特許権者は、先行技術を回避するためにクレームの訂正を行うことができる(301~307条、311~318条)。
 訂正の効力は、訂正前には及ばない。

(8)分割出願(時期および内容)

(8)-1 継続出願

 原出願に対する特許付与、または出願手続の放棄もしくは終結の前に行うことができる(120条, CFR 1.53(b))。
 原出願の開示範囲内においてのみ可能。
 原出願において(特許可能な請求項について早期権利化を図るため)
特許化を断念した請求項について再度チャレンジする場合や、
侵害被疑品に合わせて再構成した請求項などについて行う。

(8)-2 分割出願

可能な時期および範囲は、継続出願と同じ(120条, CFR 1.53(b))。
 原出願に対して単一性不備の拒絶理由(エレクション、リストリクション。上記(4)-5参照)が指摘された場合に、
選択しなかった発明などについて行う。

(8)-3 一部継続出願

 原出願に対する特許付与、または出願手続の放棄もしくは終結の前に行うことができる(120条, CFR 1.53(b))。
  原出願の開示範囲を超えて行うことができる(日本の国内優先権主張出願に相当)。ただし、追加部分については、基準日は一部継続出願の出願日。

(9)米国特有の制度

(9)-1 IDS(Information Disclosure Statement:情報開示陳述)

 特許出願に関係する者(発明者、出願人、代理人など)は、
特許性に関して重要な(material)情報を、特許庁に提出する義務がある(37 CFR 1.56)。
 「特許性に関して重要な(material)情報」とは、拒絶理由を構成できるような情報。対応他国出願の引例はこれに該当する。

(9)-2 仮出願

 明細書や請求の範囲の方式を満たさない書面で出願が可能(111条(b))。出願日を確保するために行う。
12カ月以内に、仮出願を基礎として通常の出願を行う。
 原則として英語(37CFR 1.52(b)(1)(ii))。
 ただし、英語以外、すなわち日本語の明細書でも出願可能(37CFR 1.52(d)(1))。翻訳文の提出は不要(37CFR 1.52(d)(2))。

(9)-3 RCE(Request for Continued Examination:継続審査請求)

 ・出願の審査が終了した後で、かつ、
・特許料の支払い前、特許出願の放棄前、または特許庁審判部による連邦巡回控訴裁判所への提訴の前に、
審査の継続を求めることができる。
 RCE後は、ファイナルアクション受領後の補正の制限(上記(5)-2(iii)参照)はなくなり、新規事項でない限り補正が可能。

「本記事は、外国の特許制度の概要をご紹介することを目的とするものです。個別の案件の対応につきましては、弊所担当者、または当該案件の国内または当該国の代理人にご相談下さい。」