中国特許制度の紹介

(1)出願言語

欧州
 原則として中国語のみ。
 PCTルートであれば、他言語による出願可。国内移行時に中国語の翻訳を提出する。国内移行期限は、優先日から30ヶ月。延長費用を納付した場合には最大2ヶ月延長可。

(2)マルチ従属クレームおよびクレーム加算

 マルチ従属は許されるが、マルチのマルチ従属は許されない。
 10を超えるクレーム毎に150元加算される。ただし、クレーム加算は出願時にのみ適用され、審査請求時や登録時には適用されない。
そのため、例えば、出願後の自発補正によってクレーム数が増加しても、クレーム加算は適用されない。

(3)審査請求制度の有無

 出願日又は優先日の早い方から3年以内に実体審査請求をする必要あり。

(4)特許要件

(4)-1 コンピュータプログラムについての発明性

 「コンピュータプログラム」を対象とするクレーム(末尾が「コンピュータプログラム」であるクレーム)は許されない。
但し、コンピュータプログラムを用いて実現される方法・装置は、技術的特徴を有する場合(知的活動の規則や方法で無い場合)には、許可され得る。

(4)-2 新規性・創造性・実用性

 特許権を付与する発明及び実用新案は、新規性及び創造性、実用性を具備していなければならない(専利法第22条)。
 新規性とは、当該発明又は実用新案が既存の技術に属さないこと、いかなる部門又は個人も同様の発明又は実用新案について、出願日以前に国務院専利行政部門に出願しておらず、
かつ出願日以降に公開された特許出願文書又は公告の特許文書において記載されていないことを指す。
 創造性とは、既存の技術と比べて当該発明に突出した実質的特徴及び顕著な進歩があり、当該実用新案に実質的特徴及び進歩があることを指す。
 実用性とは、当該発明又は実用新案が製造又は使用に堪え、かつ積極的な効果を生むことができることを指す。

(4)-3 いわゆる拡大先願

 いわゆる拡大新規性(拡大先願)において、同一出願人(同一発明者)の先願も先行技術となる(専利法第22条第2項)。EPのセルフコリジョンと同じ。

(4)-4 新規性喪失および先願の例外

 出願日または優先日の前6カ月以内に以下の状況のいずれかがあった場合でも、新規性は喪失しない(専利法第24条)。
(一)(二)の場合には、出願時に申請書類、出願日から2ヶ月以内に証明書類を提出することが必要。
(一)中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合。
(二)規定の学術会議、あるいは技術会議上で初めて発表された場合。
(三)他者が出願者の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合

(4)-5 単一性

 一つの特許出願として提出できる一つの全体的発明構想に属する二つ以上の発明又は実用新案は、技術的に相互に関連し、
一つ又は複数の同一又は相応する特定の技術的特徴を備えなければならない。
ここに言う特定の技術的特徴とは各発明又は実用新案が全体として既存技術に貢献した技術的特徴を指す(専利法第31条第1項、実施細則第34条)。

(5)補正の制限(時期および内容)

(5)-1 内容

 出願時の原明細書及び特許請求の範囲に記載した範囲を越えてはならない(専利法第33条)。

(5)-2 時期的要件

 補正の機会は以下に限定されている。

A. PCTの国内移行の場合に、移行手続き完了後1ヶ月以内

B. 実体審査請求と同時

C. 実体審査移行通知の受領日から3ヶ月以内

D. 審査意見通知への応答と同時

E. 拒絶査定(駁回決定)に対する覆審請求(再審査請求)と同時

F. 覆審通知(覆審における審査意見通知)への応答と同時

注1)
上記A~Cにおける補正の内容的制限は、新規事項追加禁止のみであり、新規事項追加違反にならなければ、拡張補正やクレームの追加なども認められる。
注2)
上記D~Fにおける補正の内容は、指摘された欠陥を解消することを目的とするものに限られ、以下の補正はできない(自発補正はできず、減縮補正のみが可能)。

・保護範囲を拡張する補正
・補正前の発明と単一性を欠く補正
・クレームのカテゴリの変更
・クレームの追加

(5)-3 時期的要件の例外

例外1)「C.実体審査移行通知の受領日から3ヶ月」の期間終了後であって、
第1回審査意見通知書の発行前
 審査指南では補正書は提出できないことになっているが、審査官の裁量で補正書が受け入れられる場合がある
(審査の便宜を図るために有用な場合)。
例外2)「D.審査意見通知への応答」の期間終了後であって、特許査定通知書の発行前
 審査指南では補正できないことになっているが、このときも、審査官の裁量で補正書が受け入れられる場合がある(審査の便宜を図るために有用な場合)。

(6)誤訳訂正

 PCT経由で出願されていれば誤訳訂正可能(専利法実施細則第113条)。
 パリルートでは中国語出願しか認められていないため不可能。

(7)特許後の訂正

 無効審判の中でのみ、請求項の訂正が可能
 訂正の方法は以下のA~Cのみに限定される

A. 請求項の削除

B. 請求項内の並立する技術方案の削除(マーカッシュ形式等の選択肢の削除)

C. 請求項の併合

 例えば、独立請求項1のみに従属する請求項2と、独立請求項1のみに従属する請求項3の両方の内容を独立請求項1に追加し、請求項2,3を削除することが可能

注1)
明細書中の記載から請求項を減縮補正することは一切認められない。
注2)
補正できるのは請求項のみであり、明細書の補正はできない。例えば、審査時に明細書を補正して新規事項を追加してしまうと、その瑕疵を治癒できないので無効が避けられない。

<例外>
例外1)中国最高人民法院の判決例:(2011)知行字第17号
 この判決例では、特許時の「1:10~30」という数値を「1:30」に減縮する補正が、無効審判での補正として認められた。

(8)分割出願

 単一性違反を指摘された場合に加え、以下の期間に自発的に分割出願が可能

A. 出願に係属中

B. 最先の原出願に対する特許査定の発行から2ヶ月以内

C. 拒絶査定を受け取った日から3ヶ月以内(覆審請求をしなくても分割可)

D. 覆審に係属中

E. 審決取消訴訟に係属中

※分割出願を更に分割するには、最先の原出願が係属中または特許査定の発行から2ヶ月以内である必要がある。ただし、単一性違反が指摘された場合はこの限りではない。

(9)中国特有の制度

(9)-1 特実併願

 以下の条件A~Fをすべて満たせば、同一発明を特許出願と実用新案登録出願の両方で出願し、権利化できる。ただし、PCT出願の国内移行では特実併願ができないので、特実併願はパリルートで行う必要がある。

A. 出願人が同一であること

B. 出願日が同一であること

C. 同じ発明であること

D. 両者の出願時に併願であることをそれぞれ宣言すること

E. 特許時に実用新案権が存続していること (実用新案権は出願から10年)

F. 特許出願について拒絶理由が無いと認定され特許庁から実用新案権の放棄を宣言すべき旨の通知が発行された
 ときに、これに応じて実用新案権を放棄すること(放棄以降は特許権のみが有効になる)

「本記事は、外国の特許制度の概要をご紹介することを目的とするものです。個別の案件の対応につきましては、弊所担当者、または当該案件の国内または当該国の代理人にご相談下さい。」